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磁気モーメント間の相互作用、スピン流が関与スピントロニクスの研究に新たな「流れ」

理化学研究所(理研)の菊池徹特別研究員らによる研究チームは、磁性体(磁石)に内在する「電子スピンの流れ」(スピン流)の役割を解明した。

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次世代型磁気デバイスの設計/製造に期待

 理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター スピン物性理論研究チームの菊池徹特別研究員、多々良源チームリーダー、計算物質科学研究チームの是常隆上級研究員、有田亮太郎チームリーダーらの研究チームは2016年6月、磁性体(磁石)に内在する「電子スピンの流れ」(スピン流)の役割を解明したと発表した。研究成果は、微細加工技術が進展する次世代型磁気デバイスの設計/製造などに貢献するとみられる。

 電子のスピンの流れである「スピン流」は、外力が加わらなくても物質中に自発的かつ、恒常的に発生することがある。この現象は「平衡スピン流」と呼ばれ、電子が持つ「スピン軌道結合」という性質によって生じるものである。空間反転対称性の破れている物質は、スピン軌道結合の効果が相殺することなく、物質全体に平衡スピン流が発生する。ところが、この平衡スピン流は、物質中でスピンを運ぶような性質を持たない。このために、物理的に影響力が極めて小さいと認識されていた。計測すること自体も難しかったという。


空間反転対称性の破れた物質の例。左が物質全体の結晶構造の一例、右はその結晶構造を緑色の矢印方向から見た図 出典:理化学研究所

 一方で、空間反転対称性の破れている磁性体(磁石)では、「ジャロシンスキー守谷相互作用」と呼ぶ、磁気モーメント間にねじれを与えようとする相互作用が存在することは分かっていた。しかも、ジャロシンスキー守谷相互作用の大きさはスピン軌道結合の大きさに比例することが、約50年も前から知られていたという。

 また、ジャロシンスキー守谷相互作用は、磁性体にナノメートル規模の微細な構造や強い指向性をもたらす可能性がある。このため、次世代型の磁気デバイスの設計や作製に向けて、ジャロシンスキー守谷相互作用の発生機構を十分に理解して、自在にコントロールするための研究が必要となっていた。

平衡スピン流とジャロシンスキー守谷相互作用

 研究チームは今回、平衡スピン流とジャロシンスキー守谷相互作用の関係に着目した。まず、平衡スピン流によってジャロシンスキー守谷相互作用が発生することを調査するため、平衡スピン流による「ドップラー効果」について解析を行った。

 磁性体においては、磁気モーメントが「音源」となって、媒質の役割を担う電子に波を立てる。その波が別の磁気モーメントに伝わり、磁気モーメント間の相互作用を引き起こす。この時、媒質である電子スピンが流れていた場合には、電子の波の伝わり方が変化する。この結果、電子の波によって引き起こされる磁気モーメント間の相互作用も変化することになる。これが平衡スピン流によるドップラー効果である。

 例えば、実験室で静止している観測者と、スピン流と一緒に動く観測者とでは、磁気モーメントの方向が異なって見える。こうした現象を用いると、平衡スピン流によるドップラー効果として、ジャロシンスキー守谷相互作用が生じることを説明することができるという。これらの研究から、定量的には平衡スピン流の大きさが、ジャロシンスキー守谷相互作用の大きさと等しいことを明らかにした。


スピン流が磁気モーメントに与えるドップラー効果の概念図。磁気モーメント(赤色の矢印)は原子が位置する格子点に局在する。その間を電子スピン(青色の矢印)の流れが、図の左手前から右奥に向かって流れている。その状況を実験室で静止している観測者から見たのが左図、電子スピンの流れと一緒に動く観測者から見たものが右図 出典:理化学研究所

 さらに研究チームは、ジャロシンスキー守谷相互作用を有する代表的な金属磁性体の一群である「Mn1-xFexGe」と「Fe1-xCoxGe」において、この解析結果が成り立つことを数値計算により実証した。この数値結果は、ジャロシンスキー守谷相互作用の大きさを調べた実験データと合致しているという。

 研究チームによる成果は、スピン流とジャロシンスキー守谷相互作用という、2つの概念を結びつけた。今回の研究成果を活用すると、物質によって異なるジャロシンスキー守谷相互作用の強さ、外力や化学的な操作で制御できる強さ、期待される現象などを、「スピン流」という視点で、直観的かつ正確に調べていくことが可能となるという。

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