高周波圧電共振器の課題を解決する回路:IoT用無線モジュールから水晶が消える!?(1/2 ページ)
東京工業大学と情報通信研究機構(NICT)は2016年6月15日、シリコン上に集積できる高周波圧電共振器による位相同期回路(PLL)を、無線モジュールの水晶発振器を置き換え可能な性能で実現する技術を開発したと発表した。
無線モジュールの小型化/低コスト化に期待
東京工業大学と情報通信研究機構(NICT)は2016年6月15日、高周波圧電共振器を位相同期回路(PLL)に用いるためのアルゴリズムと回路技術を開発し、無線モジュールなどで使用される水晶発振器を代替できる水準の優れた性能を確認したという。開発したPLLは、半導体チップに集積できるため、無線モジュールの小型化や低コスト化への貢献が期待される。
IoT(モノのインターネット)化の流れの中で、各種無線モジュールの用途は拡大している。同時に、無線モジュールには、さまざまな機器に内蔵するために小型化、低コスト化要求が高まっている。
無線モジュールの小型化、低コスト化に向け、これまでも多くの機能を半導体チップに集積化されてきているが、周波数基準信号(参照信号)を生成する共振器については水晶発振器が用いられ、集積回路化されていない。32kHzクロック生成用としてMEMS素子を利用した発振器(MEMS発振器)が登場し集積化が可能になっている。だが、32kHzクロックとともに無線回路で必要になる無線通信用のPLLの基準信号になる数十メガヘルツのクロック生成用途では、MEMS発振器は、周波数安定性や精度が低く、信号の時間軸の揺らぎであるジッタが大きいといった課題から水晶発振器を代替するまでには至っていない。
高Qな圧電共振器
シリコンデバイスに集積可能で低ジッタな水晶代替発振器として、ギガヘルツ帯で動作する高Qな圧電共振器を利用する手法が検討されている。一部の圧電共振器は、MEMS技術で作製され集積化できる。しかし、製造工程や電源電圧、温度の変化に起因する周波数ばらつき(PVTばらつき)が発振器の周波数可変レンジよりも一般的に広いため、ターゲット周波数の信号が得られない可能性があることが実用上の課題として存在する。
こうした状況で、東工大とNICTは、圧電共振器の課題を解決する新規アルゴリズムであるチャンネル調整技術と、それを用いたPLLを開発した。
カスケードPLLによるチャンネル調整技術
チャンネル調整技術は、2つのPLLを接続したカスケードPLLの構成を利用する。まず、高い周波数分解能を有する初段PLLが、フィードバック制御がかかっていない自走状態で発振器の周波数を測定し、圧電共振器帯域内で動作できるように出力周波数を決定する。その後、フィードバック制御を行い、その目標周波数にロックさせる。
後段PLLの参照信号は前段PLLから供給されるが、その周波数情報はアナログ信号(f1st)とデジタル信号(N2nd)となる。
位相情報はアナログ信号(f1st)で伝えられる。後段PLLは周波数チューニングレンジが広く、初段PLLの圧電共振器の周波数ばらつきを補正するようにデジタル信号(N2nd)を使って周波数逓倍比を設定する。このような自動的に動作周波数レンジ(チャンネル)を割り振るアルゴリズムがチャンネル調整技術であり、製造ばらつきや温度依存性が比較的大きい圧電共振器も利用できるようになるとする。
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