4人の研究から始まった山形大発プリンテッドエレ:材料、プロセス、デバイスを一体的に開発(1/2 ページ)
山形大学有機エレクトロニクス研究センター(ROEL)の時任静士教授と熊木大介准教授らは2016年5月、プリンテッドエレクトロニクスの研究開発成果を事業展開するベンチャー「フューチャーインク」を設立した。時任氏と熊木氏に、今までの研究内容や今後の事業展開について話を聞いた。
ターゲットは、印刷プロセスを用いたTFT
山形大学有機エレクトロニクス研究センター(ROEL)の時任静士教授と熊木大介准教授らは2016年5月、プリンテッドエレクトロニクスの研究開発成果を事業展開するベンチャー「フューチャーインク」を設立したと発表した。
同社は、ROELに関する材料技術、プロセス技術、デバイス技術の事業展開を目的に2016年4月1日に設立。銀ナノ粒子の開発/製造/販売を始め、プリンテッドデバイスの試作、機能性インクの性能評価、コンサルティングなどの事業を行うという。
同社の設立は、科学技術振興機構(JST)の大学発新産業創出プログラム(START)から生まれたものである。STARTは大学から生まれた技術の研究開発支援と、民間の事業化ノウハウを持った人材「事業プロモーター」を活用した事業育成を一体的に行うプログラムである。山形大学は、事業プロモータ―を東北イノベーションキャピタルとして、2013〜2015年に「微細印刷集積回路に向けた高精細、高機能な銀ナノ粒子インクの開発、製造・販売」を目指し研究開発を行った。
熊木氏は「プリンテッドエレクトロニクスは、低コストで開発できることが産業的に注目されている。スマートフォンのタッチパネルの配線は既に印刷技術で作られているが、価格競争に直面しているのが現状だ。当社は、印刷プロセスを用いた薄膜トランジスタ(TFT)をターゲットにしていこうと決めた」と語る。
TFTを製品化しようとすると、開発の仕方が必然的にインクジェット印刷や凸版反転印刷、フレキソ印刷のいずれかに決まってくる。印刷法が決まると、相性の良い材料も決まってくる。それが、銀ナノ粒子を用いたインクだったとする。
アモルファスSiと同等以上の性能を持つTFTを実現
山形大学はSTARTの3年間の研究開発で、印刷装置に適用可能な銀ナノ粒子インクの開発や、大規模な印刷装置に適用できるだけの量を確保する銀ナノ粒子インクの製造法、それを用いたロールツーロール印刷プロセス*)開発に関する研究を行ってきた。
*)ロールツーロール印刷プロセス:ロール状に巻いたフィルムを巻き送り出しながら、インクジェット印刷のような任意の加工を施し、再びロール状に巻き取るプロセス。フレキシブルデバイスの製造技術として期待されている。
研究開発の結果、銀ナノ粒子の表面エネルギー制御に成功し、従来のインクジェット印刷では難しかった線幅10μmよりも微細な配線の形成に成功。熊木氏は「製品によって求められる数値は変わるが、半導体回路を圧縮したり、消費電力を低減したりするための技術的な目安が線幅10μmだった」と語る
また、合成プロセスの最適化により、試験管レベルの量だったラボスケールの合成から、大型の印刷装置などでも扱える量(50g)を一気に合成できるまで製造法をスケールアップした。「品質のばらつき低減や低価格化に向けて、今後も1回の合成量を増やしていく」(熊木氏)。
銀ナノ粒子を用いたTFTでは、センサーを十分に駆動できる1cm2/Vsのホール移動度も得られ、事業化に向けて必要だった技術開発の目安を一通りクリアできたという。時任氏は、「印刷技術だけを用いたTFTで、アモルファスケイ素(Si)のTFTと同等以上の性能が出ているのは当社以外にないだろう」としている。
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