ソニーの低消費ICはウェアラブルの希望になるか:見据える先は「IoT」(1/3 ページ)
ソニーは、ウェアラブル端末向けにGPS(全地球測位システム)受信IC「CXD5602」を新しく展開した。28nmのFD-SOIを採用し、従来製品より大幅に消費電力を低減。パワーマネジメントICと無線通信用LSIを組み合わせたシステムでの展開も進める。その見据える先はIoTという。
ミドルレンジのウェアラブルを定義したい
当社の技術によって、ミドルレンジのウェアラブルを定義したい――。
ソニーセミコンダクタソリューションズのIoTビジネス部で担当部長を務める仲野研一氏はこう語る。調査会社のIDCによると、2015年の世界ウェアラブル端末の出荷台数は7810万台で、今後も成長すると予測されている。
しかし、2015年のスマートフォン出荷台数14億台と比較してみると(同IDC調べ)、ウェアラブル端末の普及には、まだ拡大の余地がありそうだ。
仲野氏は、現行のウェアラブル端末にはいくつかの課題があると指摘する。まず、持ち時間が1日ほどしかなく、毎日充電しなければいけないメリットをどれだけ提供できているかということ。もう1つは、用途がはっきりしていない部分を挙げる。
そのため、ウェアラブル市場がブレークスルーするには、デバイス側から見て「消費電力を低減し、ユースケースを明確にすることが重要」(仲野氏)とする。そのため、同社は、スマートフォンのようなエコシステム機能まではいかないものの、低消費電力で多機能に進化させた“ミドルレンジのウェアラブル端末”を定義することを目指す。
28nmのFD-SOIを採用
“ミドルレンジのウェアラブル端末”を定義する低消費電力デバイスとして、同社がこのほど製品化したのが、GPS(全地球測位システム)受信IC「CXD5602」だ。CXD5602は、2016年1月31日〜2月4日に米国で開催された半導体集積回路技術の国際会議「ISSCC 2016」で発表し、同年3月に量産を開始した。
GPSによる位置情報検出だけでなく、加速度や気圧、地磁気、ジャイロセンサーなど複数のセンサーから得られたデータを統合的に処理する「センサーフュージョン」を盛り込んだ。機械学習も組み合わせたことで、13種類の人間の行動を高精度で認識できるという。
また、従来製品と比較して消費電力を大幅に低減。RF回路部の消費電力は、従来品(型番:CXD5600)が6.3mWだったのに、CXD5602は1.5mWを実現。仲野氏は、「100%トラッキングした状態でも消費電力は5mW。従来より4分の1以下に低減した」と語る。
RF回路部の消費電力は、従来品(型番:CXD5600)が6.3mWだったのに、CXD5602は1.5mWを実現。76%消費電力を低減したという (クリックで拡大) 出典:ソニーセミコンダクタソリューションズ
消費電力を低減するため、今回28nmのFD-SOI(完全空乏型シリコンオンインシュレーター)を採用した。FD-SOIはトランジスタのバランスが良く、動作電圧を下げることができるとする。ロジックコアの電圧は1.1Vなのが一般的だが、同社はアナログ、ロジック、メモリ部を、それぞれ0.7Vで動作させることを可能にした。
「今回、適用が難しいFD-SOIのプロセス技術を使いこなすことで消費電力を低減できた。FD-SOIでの開発に早く着手した選択は正しかったと考えている」(仲野氏)
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