AIで働く人々は幸福になれるのか:日立製作所の矢野和男氏に聞く(1/3 ページ)
日立製作所は2016年6月、AI技術を活用し、働く人の幸福感向上に有効なアドバイスを、各個人の行動データから自動で作成する技術を発表した。今回の発表に伴い、ソーシャルメディア上では、AIに対する期待と不安の声が混じっている。AIは私たちの幸福感を高めてくれるのだろうか。そこで、このAIを活用した技術を開発した日立製作所の矢野和男氏にインタビューを行った。
AIが社員を幸福に?
「上司のBさんに会うのは、午前中がオススメです」
職場での会話や時間の使い方など、職場での幸福感を高めるためのアドバイスを、人工知能(AI)が当たり前のように行ってくれる時代がやってくるかもしれない――
日立製作所は2016年6月、AIを活用し、働く人の幸福感向上に有効なアドバイスを、各個人の行動データから自動で作成する技術を開発し、日立グループの営業部門に所属する約600人に対して、実証実験を開始したと発表した。
今回の発表に伴い、ソーシャルメディア上ではさまざまな反響が見られた。「良いサービス!」「いっそAIが上司になってくれ」「これって、機械に人間が使われる状態じゃない?」など、AIに対する期待と不安の声が混じっている。
実際のところ、AIは私たちの幸福感を高めてくれるのだろうか。そこで、日立製作所の研究開発グループで技師長兼人工知能ラボラトリ長を務める矢野和男氏のインタビューから、AIを活用した新技術の詳細について紹介する。
幸福感は1人1人違う
EE Times Japan(以下、EETJ) 実証実験を開始した技術、狙いについて、あらためて教えてください。
矢野和男氏(以下、矢野氏) 名札型のウェアラブルセンサーから個人の行動データを取得し、2015年に発表したAI技術「Hitachi AI Technology/H」(以下、H)」を活用して、幸福感を高めるためのサービスを展開している。AI技術を活用したサービスは2015年から始めており、既に13社で実証実験、またはシステム導入を行っている。
今までは、ウェアラブルセンサーで取得したデータをHで分析し、マネジメント層を支援するためのレポートとして顧客に提供していた。コールセンターにおける実証実験では、従業員の平均幸福度が高めの日は、低めの日に比べて受注率が34%高いことが明らかになっている。つまり、組織の活性度、幸福度が、生産性に大きく影響することが実証された。今回の発表は、より1人1人の幸福感向上にフォーカスしている。
EETJ 行動データとは、どのようなデータですか?
矢野氏 ウェアラブルセンサーには、赤外線センサーと加速度センサーが搭載されている。赤外線センサーは対面情報を取得し、「誰と誰がいつ、何時に会っているか」を検知する。加速度センサーでは、身体の動きを取得する。例えば、デスクワークをしているかなどの状態を検知する。人と会っている時であれば「話し手」か「聞き手」かどうかなどのデータも取得する。
EETJ 収集したデータをHで分析するのですね。
矢野氏 大量のデータを収集後、Hで分析を行い、スマートフォンを通して自動でアドバイスを行う。コンピュータがアドバイスしているように見えるが、全て過去のデータが行う。既に起きたエビデンス(証拠、根拠)を基に、フィードバックを行うのだ。
大事なことは、同じ職場でも、隣に座っている人でも、幸福感の答えは違うことだ。現行の人事施策や自己啓発本は、「こうやればいい」と皆が同じことを前提にしている。そんなことはない。各個人によって、得意なこと不得意なことがあるし、経験も違えば、担当する業務も違う。一律の答えがあること自体、おかしいのではないだろうか。
1人1人の行動には、さまざまな痕跡が含まれている。その細かい部分を人間だけで把握するのは不可能なので、データを用いてアドバイスすることを提案している。
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