“IoTの勝者 ARM”買収でソフトバンクが狙うもの:IoTの源流を押さえた?(1/2 ページ)
ソフトバンクグループが2016年7月18日、半導体設計用IPベンダー大手のARMを買収した。ソフトバンクとARMとは直接的な関係性はなく、買収による相乗効果は見えにくい。なぜ、ソフトバンクはARMを買収するのかを考えたい。
ソフトバンクグループが2016年7月18日、半導体設計用IPベンダー大手のARMを買収した。ソフトバンクとARMとは直接的な関係性はなく、買収による相乗効果は見えにくい。なぜ、ソフトバンクはARMを買収するのかを考えたい。
機器の頭脳として欠かせなくなったARMコア
SoC(System on Chip)、マイコンなど、組み込み機器の頭脳となる半導体デバイスを開発する上で、ARMのCPUコアIP(Intellectual Property、知的所有権)は、「必須」といっても過言ではない状況になりつつある。
ARM製CPUコアIP(以下、ARMコア)は、携帯電話機用アプリケーションプロセッサのCPUコアとして世の中に登場した。開発サイクルが極めて短い携帯電話機において、携帯電話機のキーデバイスであるアプリケーションプロセッサを作る半導体メーカーも開発負担が増し続けていった。そうした中で、アプリケーションプロセッサ開発の中で最も時間とコストが必要なCPUコア開発を外部から調達し、開発負荷を軽減する動きが出始め、携帯電話機に主眼を置き低消費電力性能で優位性を発揮したARMコアが、さまざまなアプリケーションプロセッサメーカーに採用されるようになった。
そして迎えたスマートフォン時代。スマートフォンのOSは「iOS」と「Android」という、携帯電話機で業界標準だったARMコアで動作することを前提にした2つのOSに集約された結果、ほぼ全てのスマートフォンがARMコアベースで動作するという、IntelがPCで成し遂げた“独占状態”を、ARMはスマートフォン市場で達成した。
ARMコアの勢いは、携帯電話機、スマートフォンにとどまらない。PCを除く全ての機器、すなわち組み込み機器のプロセッサ/マイコンでも“独占状態”を築きつつある。
携帯/スマホのエコシステムでマイコンでも標準に
マイコンはそれまでCPUコアの性能がすなわち、マイコンの性能とされ、各マイコンメーカーが独自のCPUコアを開発して競い合ってきた。しかし、2000年代に入りCPUコア性能が一定の処理性能に達し、処理性能よりも消費電力性や、CPUコアの周辺機能に競争領域が移り始め、ARMもマイコン用のARMコア「Cortex-M」シリーズを投入し、多くのマイコンメーカーに採用されていく。数あるCPUコアの中からARMコアが支持を得られたのには、そのCPUコア性能とともに、ソフトウェア開発ツールやソフトウェアの潤沢さがあった。
CPUコアごとに異なる開発ツールだが、ARMコアの場合、既に携帯電話機領域で標準となっていて、多くのツールが出回っていた。さらに、ソフトウェアも携帯電話機向けに開発されたものをARMコアであれば大きな変更を加えず移植できるというアドバンテージがあった。そうしたARMが「エコシステム」と呼ぶ、CPUコアの影響が及ぶ周辺環境の充実ぶりがマイコンユーザーに支持され、競争要素が薄れつつあるCPUコアの開発負担を軽減したいマイコンメーカーは次々と、マイコンの新製品シリーズにARMコアを採用していった。
NXPセミコンダクターズやSTマイクロエレクトロニクス、富士通(現・サイプレスセミコンダクタ)など中堅マイコンメーカーを皮切りに、2011年にはPowerPCなど著名なCPUコアを持ち、マイコンシェア2位だったフリースケール・セミコンダクタ(現・NXPセミコンダクターズ)も汎用マイコンにARMコアを採用。そしてマイコン世界シェア30%前後で首位に君臨し、独自コアマイコンの展開を貫いてきたルネサス エレクトロニクスも「CPUコアはいわばツール、手段のようなもので、必ずしもCPUコアにこだわらない」と2015年にIoT機器向けマイコンのCPUコアにARMコアを採用。マイコンでもCPUコアの標準は“ARMコア”という流れが完全に出来上がっている。
実際、ARMコアが搭載されたデバイスの出荷数は、2009年は50億個に満たなかったが2015年は148億個に達した。この急激な伸びは、出荷数量の多いマイコンでの採用数増が主因だ。
今後、到来が予想されるIoT(モノのインターネット)の時代に、ネットワークにつながるモノの頭脳のほとんどは、ARMコアになる可能性が極めて高い状況だ。
PC以外の組み込み機器のCPUコアとして標準の地位を得て、さらにはIoTでも標準となる可能性が高いARMが、ソフトバンクグループに今後数カ月以内に3.3兆円で買収されることになった。
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