ARM買収は「孫氏の個人的な願望」:米国業界関係者の見解は?(1/3 ページ)
ソフトバンクによるARMの買収は業界関係者を驚かせた。今回の買収劇について、「市場リーダーとしての地位を獲得したいという孫氏の個人的な願望によって、実行したのではないだろうか」とみる業界アナリストもいる。
ARMに3兆円を投じるソフトバンク
ソフトバンクが、ARMを買収すると発表した。これにより、ソフトバンクが普通のコングロマリット(複合企業)ではないことが明確に実証されたといえるだろう。ソフトバンクグループのCEO(最高経営責任者)である孫正義氏は、スマートかつ強固な意志を持ち、優れた陣頭指揮を執ることによって、これまでに何度も今回のような大胆な賭けに出て、金融市場を驚かせてきた。
ソフトバンクは日本企業だが、堅苦しいステレオタイプを否定している。日本企業の慣習を挙げるなら、意思決定が遅々として進まない、官僚的な苦境から抜け出せない、社内議論が果てしなく続く、島国根性、優柔不断による極度の停滞状況、などだろうか。しかしソフトバンクには、こうした習わしは存在しない。
しかし、今回のソフトバンクのARM買収をめぐり、部外者たちが頭を悩ませているのは、ソフトバンクそのものに関する問題だ。
当事者たちにとって、一体どのようなメリットがあるのだろうか。もっと率直に言うと、ソフトバンクにとって、ARMに320億米ドル(約3.3兆円)もの大金を投じることに、本当に意味があるのだろうか、ということだ。
一部の業界アナリストたちは、「今回の買収は、ARMの市場見通しや、IoT(モノのインターネット)の今後に関する現実的評価よりも、孫氏自身について、より多くを物語っているのではないか」と考えているようだ。
米国の市場調査会社であるThe Linley Groupでシニアアナリストを務めるMike Demler氏は、EE Timesの取材に対し、「今回のARM買収は、CEOである孫氏自身が、徹底的に財務分析を行った結果として実行したというよりも、市場リーダーとしての地位を獲得したいという個人的な願望によって、実行したのではないだろうか」と述べている。
Demler氏は、「孫氏は記者会見の場で、『ソフトバンクはこれまで、特定の市場分野で第1位の座にある企業を買収したことがない』と語っていた。ARMは、大きな成長の可能性を秘めているため、孫氏にとっては、自分のM&Aポートフォリオの中で素晴らしい戦利品の1つになるのではないか。しかし、320億米ドルもの資金を投じたという点については、理解し難い」と述べる。
ソフトバンクの原点
まずは、ソフトバンクのこれまでの経歴を見てみよう。
孫氏は1995年に、8億米ドルを投じて米国の技術コミュニティーに参入した。このコミュニティーが後に、大規模なコンピュータ関連の展示会「COMDEX」となる。ソフトバンクは、海外ではほとんど無名だったため、同氏は大きな賭けに出たのだろう。同氏は当時、日本では既に伝説的人物だったが、海外での知名度はないに等しかった。
孫氏は20年以上前当時、“日本のビル・ゲイツ”と称され、ソフトバンクは“日本のソフトウェアプロバイダーおよび出版会社”として紹介されている。
ソフトバンクについて最も注目すべき点の1つは、孫氏が20年以上にわたり、ソフトバンクで経営トップの座を維持してきたという点だ。ソフトバンクはいろいろな意味で、孫正義そのものであり、孫正義そのものがソフトバンクなのである。
孫氏は長年にわたり、機敏にソフトバンクのかじを取り、技術業界の変化に従いながら幅広い独自性を確立するという実績を積み重ねてきた。
ソフトバンクは今や、通信およびインターネットを手掛ける巨大企業であり、もはやコンピュータソフトウェアメーカーではない。ブロードバンドや固定回線、eコマース、インターネット、技術サービス、金融、メディアなど、幅広い事業を展開している。
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