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たった1人の決意“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(4)(2/4 ページ)

全社員の4分の1を削減するという経営刷新改革が発表され、湘南エレクトロニクスには激震が走る。本音は出さずとも総じて真面目だった社員たちは会社に背を向け始め、職場は目に見えて荒れてくる。そんな中、社長に直談判しに行った須藤が決意したこととは――。

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湘エレに激震が走った

 これまで、須藤が苦々しく思っていた「ホンネを出さない社員」たちも、さすがに異口同音に、「こんなのは、むちゃくちゃだ!」と言い始めた。須藤たち開発部を含む技術部内でも、この経営刷新計画が発表されてから、職場のざわざわ感が増し、経営への不信感が明らかに感じ取れた。

大森:「須藤さん、俺たち、どうなっちゃうんでしょう? DVH-4KRのエバがキッカケなんでしょう? プロジェクトリーダー(PL)の僕は責任取らされるのかなぁ……」

須藤:「そんなわけないだろ。キッカケはCG社のエバかもしれないが、それだけで、あれほどマスコミが騒ぐものか! それに、原因がまだハッキリしていないじゃないか。考えてもみろよ。少なくともここ数年は業績の頭打ち感はあったが、うんと悪かったわけではない。それで急に希望退職までやるのはおかしいと思わないか?」

大森:「それはそうですけど、実際に、僕の同期は辞めるか、会社に残るかという会話をしていますよ。須藤さんはどうするんですか?」

須藤:「ふざけるな! 俺の前で辞めるとか二度と口にするな!」

大森:「そんなこと言ったって……」

須藤:「やかましい。俺とお前が関わった新製品があんなことになったんだぞ。真相がハッキリするまで、引っ込んでいられるか!」

 そうは言ったものの、須藤自身もこれまで人ごとであった希望退職が、いざ、自分の身に降りかかってくると、「優秀な社員から会社を去り、ぶら下がり社員ばかりになってしまい。行き着くところはロクなもんではない」ということくらいは予想がついていた。

 社員の会社や経営者への求心力は急激に下がり、不信感ばかりが増えていく。このまま黙って手をこまねいていて良いはずはないと、須藤は考えている。

開発プロジェクトが中止に


画像はイメージです

 経営刷新計画に追い打ちをかけるように、技術部内でも中村部長より方針説明があった。

中村:「経営刷新計画については皆も知っての通りだ。希望退職については、おって、人事部門より詳しい説明があると聞いている。正直、自分も困惑している。少なくとも、今の技術部でできることといえば、現在、仕掛かり中の開発プロジェクトの中止だ。ただし、これも皆がこれまでに心血を注いできたものばかりなのだということも分かっている。中止ではなく、延期できるものなら延期しておきたいものだ。開発そのものをやめるという選択肢が会社にとって最善策なのかどうかは分からないが、少なくとも、われわれ技術・開発部門にとっては最善ではないと思っている」

 開発課長の森田と、システム課長の藤田敦(42)が話をしている様子が、須藤の席から見てとれた。「あの二人は絶対に希望退職には手を挙げないだろうな」と須藤は感じ取っていた。それよりも、開発プロジェクトの中止が許せなかった。中村は役員に呼ばれたのか、既に席をはずしていたので、藤田と話をしていた森田に声をかけた。

須藤:「森田さん、ちょっといいですか?」

森田:「ん? 何だい?」

須藤:「中村さんも上から開発プロジェクトの中止を言われたんでしょうが、これって、おかしくないですか?」

森田:「なんだよ、やぶからぼうに。そんなことは部長に言えよ。こちとら、15%の給与カットだぜ。希望退職なんて冗談じゃない。おまけに、CG社のエバの1件で役員から目を付けられるし、お前にもその責任はあるんだからな。分かっているのか?」

須藤:「なぜですか? まだ原因がはっきりしていないので、真相を突き止めるのが先じゃないですか?」

森田:「開発プロジェクトは中止だと中村さんも言っているし、真相を究明したところで、それが何になるって言うんだ? まずは自分の身の心配をしたらどうなんだ」

須藤:「冗談じゃないですよ。プロジェクトが中止になったからって、真相究明をしないなんて、“次”に同じことが起きたら手も足も出なくなるでしょう。それに、僕ら開発課にエバの責任があると思われたまま、仮に辞めることになったら悔しい以外の何ものでもないですよ」

森田:「次? お前、分かっているのか? “次”などないかもしれないんだぞ。開発プロジェクトの1つや2つ、気にするな! 会社が存続さえすれば、プロジェクトなどいつでも再開できるんだぞ!」

須藤:「は? 森田さんは僕よりも10歳年上だ。技術部の早期退職の筆頭候補は、森田さんかもしれないんですよ。会社が存続しても自分は残れるのかどうか、それを心配されたらどうですか?」

森田:「おい、ちょっと待て! そもそも、お前の用事は何だったんだ?」

と声をあらげる森田を背にした須藤だったが、「そういえば、開発プロジェクトの中止のことで文句があったんだった」と思い出す。だが、森田に相談しても意味のないことにも気付き、我ながらどうかしていたと少し反省するのだった。

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