会社を変えたい――思いを込めた1通のメール:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(5)(4/5 ページ)
社長の日比野に直談判した須藤は早速、行動を起こす。とにかく会社を何とかしたい。自分と同じように考えている“仲間”を集めて、この逆境を乗り越えたい――。その思いだけを胸に、須藤は、恐らくは自分と同じように感じているだろう“仲間の候補”たちに1通のメールを送ったのだった。
再建の青写真は描けるのか
佐伯:「そうそう! さっき、エバ機の問題の原因究明をわれわれで行うのも一案だと話をしたよね。恐らく、製造部門や品質保証部が余計なことをしてくれるなと怒鳴り込んでくるかもしれないけどね。
それに、考えてもごらん。仮にエバ機の原因究明ができたとして、希望退職は経営刷新計画でもう決まったことで覆せない。“われわれでできること”として考えなければならないのは、エバ機の原因究明はちっぽけな枝葉でしかなく、希望退職後に残った社員が当社再建の具体的な青写真を描けるようにすることだ。
須藤さんのメールで社長が悩んでいる様子と書いてあったが、経営者が悩むことはこういう部分だ。万が一、社長が責任を取って退任したとしても、残った役員や社員に会社を立て直す気がなければ、同じことを今後も繰り返すかもしれない。社長が言っていた“社員がその気にならない会社に未来はない”という本意はそこにあると思うよ」
三井:「僕もまったく同じ考えです。会社を変えて良くしたいという思いと、希望退職を実行しないといけないので、僕の立場的にはここにいるみんなと会社の間で板挟みです。しかし分かってほしいのは、今、目の前のことにきちんと向き合い、会社のことを真剣に考え、何をしていかなければならないかということです」
末田:「須藤が1人であれこれ悩み、突っ走るもんじゃないってことさ。この中から希望退職者が出たっていいじゃん。それはその人の考えなんだから。それよりも、今回の1件で、こうやって会社のことをちゃんと考えている人が、今こうして集まって、一緒になって知恵を出そうとしている、動こうとしている。このこと自身が意義があり大事なことだと思うけどな」
大森:「さっき、佐伯さんが言ったみたいに、今さら会社など関係ないとか、残る人間で何とかしろなどという人もたくさん出てくると思いますけど、まずはできることから始めてみましょうよ」
須藤は目の前でやりとりされる会話を聞きながら、考えていた。
これまで技術部の社員を見ていて、覇気が感じられない、言われたことしかやらないなど、自分から主体的に動こうとしない社員に腹立たしさを感じていた。須藤が思い感じたことを、「それっておかしいでしょ!」と口にするたびに、課長の森田からは「余計なことは言うな」「本社の意向や上の意見を聞いていればいいんだ」と頭ごなしに言われ続けてきた。
会社を辞める理由として、よく挙げられるものの1つに職場の人間関係や雰囲気があると聞く。時にそうした悩みが、仕事そのものの面白さを上回ってしまうとも、何かの記事で読んだことがある。佐伯さんが言うような、残った社員が「ふんばるぞ」と思えるような青写真をどうすれば描けるのだろうか。
佐伯:「僕がビジネススクールに通っていた時の先輩が、都内でコンサルティング会社をやっている。当社と似たようなところ、たくさんの場数を踏んできた人だ。われわれにできることを自分たちだけで考えていても、決定的な解決策はそうは出てくるものではない。こういうときは、外からの知恵を借りることも視野に入れなければならない」
須藤:「知らない人に社内事情をしゃべってしまっていいんですか?」
大森:「ですよね。相談料とか、お金を取られそうだし……」
佐伯:「そこは大丈夫だし、それが仕事だ。僕から連絡しておくから」
今日の打ち合わせでは明確な結論は出なかったものの、集まってくれた人の意見を聞くことができ、「何とかしたい」という思いは共有できたと須藤は感じている。しかし、具体的に「われわれにできること」は何か?という問いに対する答えは社内ではそう簡単には見いだせそうになかった。
「希望退職について」という社内通達が管理部人事課より全社員に対して出されたのは、翌週のことだった。
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