QualcommのNXP買収、業界に及ぼす影響(後編):i.MX8はどうなる?(2/3 ページ)
後編となる今回は、NXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)の「i.MX8」アーキテクチャや、プロセス技術、マシンビジョンなどの側面から、今回の買収による影響を掘り下げる。
非バルクCMOSプロセスの経験がないQualcomm
しかし、現在のところ全く明らかになっていないのが、合併後の新会社が将来的に、車載用アプリケーションプロセッサ向けに、どの半導体プロセス技術を採用するのかという点だ。
例えば、旧Freescale Semiconductor(フリースケール・セミコンダクター)は、NXPに買収される以前は、低消費電力のFD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレーター)プロセスを適用することにより、MCUおよびアプリケーションプロセッサの開発において幅広い経験を積み重ねてきた。
NXPは、i.MX8に28nm FD-SOIプロセス技術を適用している。同社のオートモーティブ事業部門は、EE Timesのインタビューに対し、「FD-SOIは、バルクCMOSベースのプロセス技術と比べて、放射線によるソフトエラーやビットフリップに対する耐性がはるかに高い。FD-SOIを採用することで、アプリケーションプロセッサの安全性を桁違いに高められる。これにより、i.MX8は、車載用途向けの理想的な選択肢の1つになっているといえるだろう」と述べている。
一方Qualcommは、非バルクCMOSプロセス技術に関する経験が全くない。このため、同社がFD-SOIについてどう考えているのかは不明だ。
QualcommのMollenkopf氏は、カンファレンスコールの中で、同社の最先端SoCの性能について大いに称賛している。同氏は、「Qualcommは、NXPがこれまで自動車やセキュリティ、IoTなどの分野において構築してきた、業界をリードする販売チャネルや地位に対し、うまく調和することができると確信している」と語った。しかし同氏は、Qualcommが今後手掛けていくSoC向けに、どのプロセス技術を適用するつもりなのかについては、全く言及しなかった。
アナリストの多くは、Qualcommが今後、ファウンドリー各社との協業によって量産面で優位性を確保することにより、自動車市場に進出していくとみているようだ。やはり、Qualcommにとって原動力となるのは、CMOSプロセス技術を適用して製造した、スマートフォン向けアプリケーションプロセッサであるようだ。
IHSのBuksh氏は、「特にコスト面から見ると、買収後の新企業は、他のさまざまな業界との間でコストを分担しながら、16nm以降の最先端プロセス技術のコストも分担することができるだろう」と指摘している。
また同氏は、「既存の自動車メーカーは現在、低消費電力で高性能処理を実現できるよう、プロセス技術の微細化を迫られている。しかし、自動車事業のROI(投資対効果)は、極めて低い。NXPは、Qualcommに買収されることで、Qualcommの他の業界からのROIを活用できるようになるため、新しいマスクセットへの投資も可能になる」と述べる。
一方で、Strategy Analyticsの自動車部門でバイスプレジデントを務めるChris Webber氏は、今のところはまだ確信が持てないようだ。「最終的には顧客企業が判断することになる。車載用アプリケーションは、コストと性能、消費電力のバランスをいかに取るかが重要視される。新しいアプリケーション設計は、14nm FinFETプロセスの高コストを正当化できるような高い性能を必要とするのだろうか。i.MX8は、28nm FD-SOIが適用されているが、Snapdragon 820AにはSamsungの14nm FinFETが適用されている」(同氏)
Linley GroupのDemler氏は、「Qualcommにとって、自動車環境向けに信頼性の高い仕様を実現するチップの開発を手掛けるのは、初めての経験だ。このため同社は、NXPが自動車市場向けにFD-SOIを適用していることについて、慎重に判断すべきだ」と述べている。
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