沈黙する人工知能 〜なぜAIは米大統領選の予測に使われなかったのか:Over the AI ――AIの向こう側に(5)(5/9 ページ)
世界中が固唾をのんで、その行方を見守った、2016年11月8日の米国大統領選挙。私は、大統領選の予測こそ、人工知能(AI)を使い倒し、その性能をアピールする絶好の機会だとみていたのですが、果たしてAIを手掛けるメーカーや研究所は沈黙を決め込んだままでした。なぜか――。クリントンvsトランプの大統領選の投票を1兆回、シミュレーションしてみた結果、その答えが見えてきました。
1万人に1人の心変わりで、勝率がほぼ100%に!?
今回の選挙で、トランプさんは、選挙人306人を獲得して「大勝」したことになっていますが、このシミュレーション結果を見た後では、全く信じられなくなりました。
それでは、もし、この50.00%の均衡を破ってみたらどうなるだろう、と思って、クリントンさんとトランプさんへの投票率を、49%:51%にして再度シミュレーションしてみたら、1万回のシミュレーションの全てで、トランプさんが選挙人の全員538人を獲得するという、仰天の結果が出てきてしまいました。
これでは、比較ができないので、今度は、クリントンさんとトランプさんの投票率の差を、さらに僅差の49.99%:50.01%として、再度、連続1万回シミュレーションを再実行してみました。その結果を以下に示します。
―― 1万人にたった1人の心変わりで、勝率が50.76%→99.61%に跳ね上がるって、マジ?
と思いました。これ、多数決で民意を反映することを目的としている選挙としては、世界最低の選挙方式なんじゃないかなぁ、とまで思いました。
大統領選においては、えげつないスキャンダル合戦が繰り返されているといわれていますが、そりゃ当然です。
全有権者の、1万人にたった1人の気持ちを変えるだけで、選挙人総数538人中、獲得選挙人数が100人以上がコロっと入れ替わるような選挙であれば、敵方に撃ち込むスキャンダルの弾は、多ければ多いほどいいはずです ―― かっこつけて、スキャンダル合戦に参戦しない候補者がいたら、そいつはアホだといっても良いでしょう。
このように、現状の米国大統領選の仕組みは、そもそもが、投票のパターンに対して結果(選挙人獲得数)が恐しく敏感であり、加えて、ほんのちょっとした有権者の気まぐれで、選挙結果が簡単に大逆転してしまうものであることも分かってきました。
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