物理シミュレーションで知る「飛び込みコスト」の異常な高さ:世界を「数字」で回してみよう(37) 人身事故(7/11 ページ)
以前私は、「電車への飛び込みの(当事者の)コストは安い」と申し上げました。ですが、実は安いどころか相当に高いということが分かってきました。今回からは、非常にツラい作業ではありますが、「飛び込み」について物理シミュレーションを行い、飛び込みがどれだけ酷なものであるかを皆さんに知っていただきたいと思います。
「理想的な飛び込み」、それは幻想である
現時点において、幾つかシミュレーションなどは終了しているのですが、まあ、今回は、物理シミュレーション編の1回目ということもありますので、まずは、中学や高校物理程度の軽いシミュレーションで、読者の皆さんには少しずつ、今後の連載の内容に慣れていただこうかと考えています。
最初は、「理想的な飛び込み」というものを考えてみたいと思います。
これは、私の一方的な思い込みなのですが、恐らく、多くの人が持つ「飛び込み」のイメージというのは、落下の途中、電車の正面(運転席から下の辺り)で、電車に横から体当たりされる「空中衝突」だと思います。
この空中衝突の「飛び込み」のイメージは、アニメ、コミック、ドラマに実に多いのです。空中衝突ができれば、その場で即死。うまくいけば線路の軌道外に弾き飛されて、死体を切り刻まれることなく、比較的きれいな状態のまま、線路上で発見される ――と、そんなイメージを持っている方もいるかと思います。
で、その落下途中に、スローモーションのように自分の人生の走馬灯が見える、とか思っているかもしれませんが、
はっきり申し上げて、それは幻想です。
それを、これから簡単な机上シミュレーションで説明しましょう。
今回は、飛び込み自殺を確実なものとするため、時速100kmで走行する通過電車への飛び込みを試みます(各駅停車の電車への飛び込みの場合、最悪の苦痛を受ける可能性が高くなりますが、これはまた後日)。
そもそも、駅のホームからレールまでの距離は110cmで、落下時間はわずか0.47秒しかありません。これでは、走馬灯のオープニング画面にすらたどりつけないでしょう。
また、ここで見落としてはならないのが、「ホームの縁ギリギリに立って、電車がやってくるのを待つ」というやり方が採用できないということです。なぜなら、“その様な人の首根っこをつかんでホーム側に引き倒し、『この電車の後でやれ』と吐き捨てて、電車に乗り込む”、私のような人間がいるからです。
これを回避するためには、最初はホームの奥の方にいて、電車が来るタイミングを見計らって、歩いて近づかなければなりません。しかし、これも、とても難しいのです。私の試算では、ただ歩いているだけ(時速3km)ではダメで、しかも走っても(時速8km)でもダメです。正確に時速6km(秒速1.66m)で歩かないと、電車の正面にぶつかることが難しいのです。
しかし、これでもまだ十分ではありません。
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