時をかける人工知能 〜たった1つの数値で結果から原因に遡る:Over the AI ―― AIの向こう側に(6)(7/11 ページ)
「ベイジアンネットワーク」は、私が最も使い倒している人工知能技術の1つです。ある事柄について、たった1つしか信頼に値する数字がなくても、「現在の結果」から「過去の原因」を、遡(さかのぼ)って推測できる。そんな技術なのです。
時をかける人工知能
さて、私、このベイジアンネットワークとBAYONETを、とことん使い倒してきたユーザーの1人です。なぜかというと、世の中には分からない数字が多すぎるからです。
以前、別媒体で、性同一性障害についての連載を担当していた時、心底困っていいました。
それは、「性同一障害」と認定される前の段階の「自分の性に違和感を覚える人」の国内人口数が全然分からなかったことです。論文、ネット、その他いろいろと調べてみたのですが、データの値がバラバラな上に、その根拠の記述が絶無だったのです。
その連載の時点において、はっきりしていたデータはたった1つ、戸籍上の性別変更が認められた人の人数だけでした。
このたった1つの数値から、「自分の性に違和感を覚える人」の人数に遡れるか、が目下の解決すべき課題となっていたのです。
では、ここから、現在の結果から過去の原因に遡る、「時をかける"人工知能技術"」をご覧いただきましょう。
私は、ここで上記の“超ざっくりな仮説”を2つ立てて、まずは戸籍上の性別変更人口を推定しました。
次に、さまざまな文献を読んで、戸籍上の性別変更の手続に至るまでのプロセスをベイジアンネットワークに見立てて、そこに、ネットや書籍から拾ってきた数値を、片っぱしから組み込みました。
さらに、分からないところは、拾ってきた数値に矛盾が生じない範囲で、いろいろな数値を手作業で入れ直しながら、ベイジアンネットワークのチューニングを繰り返しました。
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