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本当に怖い「飛び込み」の世界、知っておきたい4つの知識世界を「数字」で回してみよう(38) 人身事故(10)(7/9 ページ)

「人身事故」を真面目に検証するこのシリーズも、いよいよ佳境に入ってきました。最終フェーズとして「人身事故物理シミュレーション」を行っていますが、今回は、このシミュレーションを、より深く理解してもらうための4つの予備知識を説明します。今回もツラいです。それでも、「飛び込み」をなくすには、「飛び込んでから」の痛みを想像できるようになることが重要だと、私は思うのです。

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人身事故による電車の脱線はあるのか

 では、ここからは、これまでの計算結果を使って、「レールに覆い被さった人体によって、電車が脱線する可能性はないのか」の検討に入ります。

 今回調べて分かったことなのですが、電車の車輪というのは、レールの上に「面」で乗っているのではなくて「点」で接触しているのです。

 この構造は、非常に理にかなっています。車輪とレールが「点」で接触することで、カーブでも接触点が常に移動し続け、摩擦によるエネルギーロスを最小にすることができます。また、季節の温度変化による車輪やレールの膨張や凝縮にも、神経質になる必要がありません。

 しかし、逆に考えれば、車両の全重量は、この「接触点」に集中することになります。

 電車の一車両は8つの車輪を持っていますので、1つ当たりの設置点の圧力は、以下のような値となります。

 この値は、前述の「介錯」の圧力とほぼ同じ程度であることが分かりますので、計算上、電車の車輪は、人間の肉体を完全に粉砕、轢断し続け、レールから1mmも離れることなく運転を続行できることが分かります。

 つまり、飛び込み自殺が発生したとしても、電車はそのまま問題なく運行し続けることができるのです。バラバラになった遺体を回収することは、電車の運行上、必須とはいえないのです*)

 『鉄道人身事故に関しては、モラルとか常識を無視してもいい』という社会的合意さえ得られれば ――バラバラになった遺体を、終日放置したまま、終電まで列車の運行を続けるという選択肢も取り得ます

*)実際には、自殺か他殺かの現場検証が必要ですし、飛び跳ねた肉体が、電車の底の機器を壊している可能性がありますので、停車して点検を行うことは避けられないと思いますが。

 なにしろ、人間の体は、電車の車輪のサイズに対して、轢断されるのに実に理想的なサイズなのです。

 (私の体で実測したところ)うつぶせになった人間の高さは、電車の車輪の半径(40cm)のちょうど半分程度(20cm)であり、このサイズであれば、電車の先頭車輪が最初の人体轢断を開始した時にも、車両に対して大きな衝撃(縦揺れ振動など)は発生しません

 「スパッ!」と人体を切断します。実際、私が調べた限り、人身事故の発生時に、電車に乗っていた乗客が転倒などしてケガをしたというケースは見つけられませんでした。

 1車両に8個の車輪を有する電車は、人体を何度も何度も轢断し続けます。一方、レールの間に残された肉体は、電車の底部にある車軸やブレーキ用のポール ―― 電車の底の凶器たち ―― に、何度も何度も突き飛ばされ、転がされ続けます。

 電車の底で回転を繰り返しながら、電車にドリブルされ続け、バラバラになってレール周辺に散らばってしまうのです。

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