“不合理さを指摘できる組織”に、それが残った社員の使命だ:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(9)(2/4 ページ)
コアメンバーで準備を進めてきた「社内改革プロジェクト」を、いよいよ全社員に向けて周知する日がやってきた。“おかしいことをおかしいと言えない職場”を、今こそ変える。強い決意を胸に、プロジェクトを発表した須藤たちだが、予想通りの反発が返ってきた。「そら来た」と須藤は身構えたが――。
GEのワークアウト
杉谷は図1を映し、GE(General Electric)のワークアウトを説明しだした。
ワークアウト(General Electric社)
GEのCEOだったジャック・ウェルチ氏が1988年に提起した概念である。同社は、今でこそ優良企業に位置付けられてはいるが、当時は悪しき官僚主義がはびこっていた。システム(仕組み)から余分な「仕事(ワーク)を取り除く(アウト)」ことによって、この官僚主義を根絶し、従業員の働く時間を自由にするという考え方が、「ワークアウト」の名前の由来である。
変化を尊重し、組織学習を重んじるGEが、現場に近いところへ問題解決と業務改善をエンパワーメント(権限委譲)し、迅速かつ集中的に意思決定するためのプロセスとして、根づかせてきたものとして知られる。GEは1990年代に入ってワークアウトが日常化し、1992年にはチェンジアクセラレーションプロセス(CAP)へと発展し、全社的な業務変革に取り組むための体系へと進化した。
活動の進化として7段階を経る。特に第1段階がワークアウトであり、「RAMMPマトリクス」と呼ばれ、徹底的に今までの仕事のやり方や業務プロセスの必要性を追求する。R=報告書(Reports)この報告書は本当に必要なのか? A=承認(Approvals)決定事項にこんなに多くの承認が必要なのか? M=ミーティング(Meeting)このミーティングは本当に開く必要があるのか? M=行動(Measure)目に付く(見て分かる)行動は何か? P=制度(Policies and Procedures)モチベーション向上、効率化に役立っているか?が基本となる。
杉谷:「つまり、“エンパワーメント”がワークアウトのキーであり、自発的・主体的な活動の成功要因です。これは『新しい企業文化づくり』の活動に限りなく近いものです。エンパワーメントとベストプラクティスの経験を繰り返すことで、組織学習をすることを意味しています。エンパワーメントとは、与えられた業務目標を達成するために、組織の構成員に自律的に行動する力を与えることに他なりません。その特徴は、“自律性を促し”“支援する”ことにあるので、まさにこれから皆さんがやろうとしている活動そのものです」
若菜:「ということで、“活動は仕事である”ことが原則で、そう考えれば最初に杉谷が皆さんに聞いたことの答えは既にお分かりですね? それに、就業時間中に活動をしたらダメ! にもかかわらず、活動はやれ! だとすると、残業時間や休日出勤をして活動をすることになりますよね? では、休日出勤で、通勤途上災害や労災相当の事故に遭ってしまったとしたら、どうでしょう。この時、会社は、“仕事ではないから関係ない”などと言い切れるものではないですよね」
(2)会社をどのような組織にしていきたいか――本音で話ができる組織づくりを
次に杉谷が示したスライド(図2参照)も、皆が納得するものだった。これまでの湘エレの企業体質をそのまま絵にすると、こうなるんだろうな…と誰もが思っていたからだ。
杉谷:「組織の中においては、『おかしいと分かっていても、そうするしかない』『言っても(自分が)損をする』などの企業不文律があるものです。“おかしいよ、それ”と言ったがために周囲との関係性を維持できなくなることを心配したり、会議などの場において誰も口には出さないけれど、意見を言ったところでつぶされると思ったりしている。いつまでたっても本音が出てこない、というより、本音を出せないんですね。ですが、組織の中で“おかしいことをおかしいと言えない組織”が最も“おかしい”のですよ」
須藤:「僕がずっと感じていたことですよ、これ」
大森:「森田課長にことごとくつぶされてましたもんね」
須藤:「だって誰も何も言わないなら、俺が言うしかないじゃないか!」
若菜:「だからこそ、こういう組織にはしたくないと思うことが大事です。450人もの人が会社を去ったんでしょう。残った皆さんは、なぜ会社に残ることを選択したのですか。前と同じ過ちをするためではないはずです。おかしいことは変えていく。“おかしいことはおかしいといえる組織”にすることが会社に残った皆さんの使命ではないでしょうか?」
大森:「すごい! 若菜さん。マジにホレちまいそうです」
神崎:「大森さんは仕事もピカイチですけど、こういうおバカっぷりもピカイチですよね」
一同:(笑う)
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