検索
連載

抹殺する人工知能 〜 生存競争と自然淘汰で、最適解にたどりつくOver the AI ―― AIの向こう側に (7)(7/13 ページ)

“人工知能技術”の1つに、生物の進化のプロセスを用いて最適解へと導く「遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm:GA)」があります。25年ほど前に私が狂ったようにのめり込んだ技術なのですが、世界的にもファンがたくさんいるようです。そして、このGAこそが、私たちがイメージする“人工知能”に最も近いものではないかと思うのです。

Share
Tweet
LINE
Hatena

花見と利己的遺伝子

 それでは、今回の後半は、生物の進化のプロセスを、最適解探索に用いる手法である、「遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm、以下GA)」について説明致します。

 そしていつも通り、このGAが“人工知能”なのかどうかについては、今回も『江端AIドクトリン』に基づいて私が勝手に判定しました。

 20年くらい前になりますが、「利己的遺伝子」という話題が流行ったことがあります。これは、「われわれ人間を含めた生物個体は、遺伝子が自らのコピーを残すために一時的に作り出した『乗り物』にすぎない」という考え方です。

 この「利己的遺伝子」という考え方は、非常に物事を説明するのに便利な考え方でして、スポーツや勉強の競争原理はもちろん、性欲やSEX、子育てや「子どもに対する保護者の犠牲的行為」までもが、一通り、キレイに説明できてしまうのです。

 そして、私たち研究員は、このように万物の現象を一貫性をもって説明できるロジックが、とても大好きなのですが ―― 同時に、それは私たちを恐しく「脆(もろ)い」存在にもしています

 研究にしか興味のない研究員たちは、極めて危ういのです。研究員が、そのようなロジックで遊んでいると、大抵の場合、為政者がしゃしゃり出てきて、無邪気な研究員たちを利用し始めてしまうからです。

 例えば、ナチスドイツが「優生学」という非常に理解しやすい学問を、研究員たちを使って、非人道的な考え方を正当化するツールにまで「発展」させてしまいました。

 この結果、研究員たちは、「ゲルマン民族の優位性」だの「ユダヤ人問題の最終的解決」という、「殺す側の理論」を構築させられ、さらには、その実施の手先にまで成り下がってしまったのです。

 嫌なら、そんなことやらなきゃいいじゃん? ―― と思われるかもしれませんが、厄介なことに、研究員という種類の人間にはそれができません。

 例えば、デートの途中で突然怒り出して、デートの相手をホッポリ出して、1人でスタスタ帰ってしまう若い女性や男性のように、

 「よく分かんないけど、嫌なものは嫌なの!!」

と、捨てぜりふを吐いて立ち去ることが ―― どうしても研究員たちにはできない。彼らは、ロジックで追い詰められると、ついつい感情の方が間違っていると錯覚してしまう。つまるところ彼らは「脆(もろ)い」のです。

 ―― とまあ、一応、こんな感じで「研究員」のダメなところを暴露した上で(「逃げ」を打っておいた上で)話を続けます。

 25年くらい前、某企業の研究所において、 「『花見』というイベントは、利己的遺伝子論的には、どのように説明できるであろうか」という、全くもって、どーでもいいような、くっだらないテーマを真面目に議論していた、若い研究者たちがいました。

 『「花見」というイベントであっても、利己的遺伝子の戦略として説明できるはずである』という仮説に基づいて、その論理構築に私たちは苦しんでいたのです(うん、私たちはバカでした)。

 この仮説に対して、ある1人の若い研究員が論理付けに成功しました(残念ながら、私ではないのですが)。

(1)『花見』とは、異性との出会いの場を形成する「ナンパの場所」の提供である。異性との出会いは、種の生成(子どもを作る)に資するので、利己的遺伝子の戦略と合目的的に合致する
(2)『花見』に来られる人間は、経済的に余裕のある独身の男性または女性が多数含まれることが推認される。それは個体を育成(子どもを育てる)する環境の構築(家族を作る) に資するので、利己的遺伝子の戦略と合目的的に合致する

 この論理付けを聞いた私たちは、思わず「おおっ」と声を上げました。

 こうして私たちの「花見」というイベントが、「利己的遺伝子の戦略に対して合目的的に実施される」ことになった訳です(うん、私たちは本当に救いがたいバカでした)。

 とまあ、この時代、このような遺伝子に関する興味の高まりも後押しして、GAがさまざまな分野で使われるようになっていたのです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る