研究における結果の誤り(研究ミス)と、研究不正の違い:研究開発のダークサイド(4)(1/3 ページ)
「研究不正」と「研究結果の誤り」というのは、根本的に異なる。後世から見ると誤りであったとしても、先人の研究結果が「研究不正」であるとは限らない。観測器具などが未発達であったことが原因という可能性も高いからだ。当時の観測器具の性能限界により、研究業績の一部を否定されてしまったのが野口英世である。
研究不正と、研究結果の誤りを区別するもの
「研究不正(研究開発における不正行為)」を考えるときに忘れてはならないのが「研究不正」と、「研究結果の誤り(研究ミス)」は根本的に異なる、ということだ。
科学技術は、先人の研究結果を否定、あるいは修正することで、進歩してきた。研究開発には「誠実な誤り(Honest Error)」という考え方がある。正当な事由のある誤りは許容されてきたのだ。後世から見ると誤りであったとしても、先人の研究結果が「研究不正」であるとは限らない。また誤りであることを理由に、「研究不正」であると疑うことは不適切だといえる。
「研究不正」(前回に説明した不正行為)を成立させる要件の1つは、故意、あるいは重大な過失の存在である。意図した行為であるか、あるいは、研究者として基本的なチェックを怠っていないか、が問われる。また不正行為そのものは、意識的であることが多い。ただし自己欺瞞(無意識)に基づく不正行為もあり得るので、この点は留意すべきだろう。
論文の導き出した結論が正しいかどうかは、研究不正の有無とは無関係である。言い換えると、論文の結論が科学的に正しかったとしても、研究不正は成立する。この最も単純な例は、盗用である。盗用論文では内容は正しいが、著者名が間違っている。
また実験データを改竄(かいざん)することで仮説が適切だと結論付けることも、仮説が結果として正しかったとしても、研究不正行為が行われていることになる。ここで事態を複雑にしているのは、近代科学の黎明期に見られるいくつかの偉大な業績に、研究不正(特に実験データの改竄)の疑いがあることだ(参考:W.Broad・N.Wade著、牧野賢治訳、『背信の科学者たち』、2章、「歴史の中の虚偽」、化学同人版)。このことについては項をあらためて説明したい。
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