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日本のメーカーに救われたスイス発ベンチャーイノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(12)(2/2 ページ)

昔も今も、シリコンバレーでは数多くのベンチャー企業がしのぎを削ってきた。日本からはなかなか見えてこないであろう、これらの企業を、今回から複数回にわたり紹介する。まず取り上げるのはPCの周辺機器を手掛ける大手メーカー、ロジテックだ。今では世界中で事業を展開する同社だが、このような成長を遂げられることになった影には、ある日本メーカーの存在があった。

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「マウス」との出会い

 その少し後のこと。筆者はボレルらとサンフランシスコで再会し、ともに母校に向かった。その時、サン・マイクロシステムズ(2010年にオラクルが吸収)が開発中のワークステーションが置いてあった。ふとコンピュータの横を見ると、何かえたいのしれない物があることに気付いた。それが、マウスだった。

 当時のマウスは光学マウスである。筆者らはマウスを手に取り、これは何だ、面白いなどと話し、大いに感銘を受けてその場を後にした。

 その後ボレルはスイスに帰国し、スイス連邦工科大学のある教授の元を訪れた。その教授は機械式マウス向けの技術を発明した人物*)で、ボレルは、その機械式マウスを製品化すべく、許可を取りに行ったのである。その結果、ボレルは商品化の権利を無償で譲渡された。

*)機械式マウスを発明した人物については、諸説ある。

 ロジテックは譲り受けた技術を基に機械式マウスを開発し、製品として売り出した。これは瞬く間にヒット商品となり、現在に至るまでロジテックの代名詞的な製品となっている。

 ビジネスの世界では、当初のビジネスプランがうまくいかず、別のプランに転換することを「ピボット」と呼ぶ。ソフトウェア会社からスタートしたロジテックにとっては、機械式マウスの発売が、まさにピボット、転換点となった。

 ちなみにロジテックは、自らが手掛ける事業を、ソフトウェアでもなくハードウェアでもなく、「Senseware(センスウェア)」と呼んでいる。コンピュータの目や耳、手となって、ユーザーとの間の動きを感知する(=Sense)からだ。

 機械式マウスを発売したロジテックは、PC市場の成長とともに、右肩上がりで業績を伸ばしていった。そして設立から7年後の1988年、スイスで上場、その後米国のNASDAQでも上場した。リコーが救った小さなベンチャーは、これほどの成長を遂げたのである。

設立初日から「グローバル企業」だった


ロジテックがスイスで1988年に上場した時の写真。創立者3人とスイス銀行家とともに撮影。左から2人目が著者(クリックで拡大)

 ロジテックについては、もう1つ、特筆すべき点がある。それは同社が、「設立初日からグローバル企業だった(Global from Day 1)」ということだ。そもそも設立者の3人は、1人がスイス人で2人はイタリア人である。日本人である筆者も、ロジテックの設立当初からアドバイザーとして同社に関わってきた。1985年から2003年まではロジテックの社外取締役を務めた。スイスで設立されたロジテックは、米国パロアルトの小さなオフィスビルに入居し、日本のリコーに窮地を救われ、そして世界に事業を展開していった。

 日本でも、1980年代半ばから展開している。ただし、「ロジテック」という社名は獲得できなかった。ストレージなどを手掛ける「ロジテック(英文表記はLogitec)」が既にあったからだ。そこで日本では「ロジクール(Logicool)」として事業を行っている。そのココロは「hot technology, cool design(ホットな技術、クールな設計)」である。筆者は、2003年までロジクールの役員を務めていた。

 PC市場とともに成長してきたロジテックだが、近年のPC市場の低迷は読者の皆さんもご存じの通りだろう。ロジテックは、昔ほどの成長はもう望めないPC分野で、今後どのようにビジネスを展開していくのかを考えているはずだ。そういった意味で、ロジテックは2回目の「ピボット」を迎える時期に来ているのかもしれない。

⇒「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー一覧

Profile

石井正純(いしい まさずみ)

ハイテク分野での新規事業育成を目標とした、コンサルティング会社AZCA, Inc.(米国カリフォルニア州メンローパーク)社長。

米国ベンチャー企業の日本市場参入、日本企業の米国市場参入および米国ハイテクベンチャーとの戦略的提携による新規事業開拓など、東西両国の事業展開の掛け橋として活躍。

AZCA, Inc.を主宰する一方、ベンチャーキャピタリストとしても活動。現在はAZCA Venture PartnersのManaging Directorとして医療機器・ヘルスケア分野に特化したベンチャー投資を行っている。2005年より静岡大学大学院客員教授、2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年よりXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。

新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。


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