AppleとQualcomm、法廷闘争に至るまでの経緯:解決の時期は不透明(1/2 ページ)
AppleとQualcommの法廷闘争は長期化し、解決の時期を見通すことが難しい状況になっている。両社の係争は、なぜここまで泥沼化してしまったのか――。その背景には複雑な取引契約の背景があった。
複雑化する両社の係争
巨大技術メーカーであるAppleとQualcommとの間で、大規模な法廷闘争へと発展した争いは、さまざまな要因が幾重にも重なり、非常に複雑化している。
Apple側の主張は、「Qualcommは、携帯電話機向け半導体市場を違法に独占している」とするシンプルなものだ。
米連邦取引委員会(FTC)は、「Qualcommの顧客企業が、通常であれば拒否したであろう高額な特許使用料の支払いを承諾した背景には、Qualcommから、さもなければ半導体チップの供給を停止するという脅しを受け、強制的に折り合いをつけたということがある。このためQualcommは、業界において同等の特許ポートフォリオを保有する他のライセンス企業と比べると、はるかに高額なロイヤルティーを徴収している」との見解を示している。
もちろんQualcommは、このような解釈に対し、「Appleは、Qualcommを攻撃することで、被害者側を悪党に仕立て上げている。そもそも、Appleが2017年1月に当社を提訴した10億米ドル規模の訴訟をはじめとする、一連の訴訟は、AppleがQualcommとの契約関係を誠実に維持してさえいれば、起こり得なかったはずだ」と主張する。
Qualcommは、Appleが最初に起こした訴訟に対して、2017年4月にカリフォルニア州南部地区連邦地方裁判所に答弁書を提出し、「Appleは、Qualcommの技術の公正価値に対する支払いを避けようと、違法な戦略を展開している」と主張した。
またQualcommは、「Appleが当社に対して起こした訴訟は、商事紛争に発展させることによって、自社こそが犠牲者であると主張し、攻撃的な戦略を展開していくための手段の1つにすぎない。Appleはこれまでにも、NokiaやSamsung Electronicsなどのさまざまなサプライヤーやライバル企業に対して、同じような法的措置を講じている。Appleが既に築き上げてきた交渉上の絶対的な影響力を、さらに高めるための取り組みの一環として、これらの企業が不正に市場を独占しているとして非難してきたのだ」と主張する。
後戻りできない局面へと突入
AppleとQualcommはいずれも、ロイヤルティーや供給関連のコストに関して圧倒的な価格決定力を行使しているため、自ら進んで引き下がるという考えは全くないようだ。しかし、巨大企業である両社の自尊心はさておき、両社間の争いが後戻りできないような状況に至った原因を解明すべく、このような混乱の背景に何があるのかを深く掘り下げていくことで、何らかの教訓が得られるのではないだろうか。
これまで報告されていたさまざまな問題の1つとして挙げられるのが、スマートフォン市場最大の顧客企業であるAppleと、業界最大手のスマートフォン向け半導体チップメーカーであるQualcommが、非常に複雑な契約関係にあるという点だ。
Qualcommは、そもそも最初に両社間の契約に違反したのはAppleであるという事実を裁判所に実証すべく、通常であれば社外秘とされていたはずの両社間の契約内容を公開した。
1.「iPhone」はWiMAXを採用予定だった
そもそもの発端は、Appleが初代iPhoneを発表した2007年1月にさかのぼる。Qualcommが提出した法的書類によると、Appleは当初、iPhoneに2G(第2世代移動通信)技術を適用していたが、将来的には、より高性能な技術を採用したいと考えていたようだ。Appleは、Qualcommとの交渉の中で、「QualcommがAppleに対して多額のマーケティング料を支払うことに合意しなければ、AppleはWiMAXを採用し、QualcommのCDMA技術をセルラー業界から追放する考えだ」と述べたという。
Qualcommは、CDMA技術のロイヤルティー収入を失うことを恐れ、Appleとの間で2007年1月8日、MIA(Marketing Incentive Agreement)契約を結んだ。Qualcommは、「当社はこのMIAに基づき、特定技術をiPhoneで採用してもらう見返りとして、Appleへの支払いを余儀なくされた」と述べる。
これが、複雑かつ厄介な問題の始まりとなったのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.