あなたは“上司”というだけで「パワハラ製造装置」になり得る:世界を「数字」で回してみよう(46) 働き方改革(5)(9/12 ページ)
今回のテーマは「労働環境」です。パワハラ、セクハラ、マタハラ……。こうしたハラスメントが起こる理由はなぜなのか。システム論を用いて考えてみました。さらに後半では、「職場のパフォーマンスが上がらないのは、上司と部下、どちらのせい?」という疑問に、シミュレーションで答えてみます。
シミュレーションから見えた、上司の「あるべき姿」
では、最後に、ハラスメントの中でも、特に「パワハラ」に特化したシミュレーションを行ってみましたので、その内容と結果をご報告致します。
このシミュレーションは、コンピュータの中に1人の上司と100人の部下を発生させて、部下の能力を発揮させる上司の「あるべき姿」を、数値的に求めるものです。
まず、このシミュレーションの設定として「(1)パワハラは上司と部下の相性の悪さで発生する」「(2)パワハラが発生すると部下のパフォーマンスは低下する」としました。
ちょっと乱暴な設定かもしれませんが、上司と部下のウマがあえば、大抵の場合、パワハラとして事件化することはありませんし、部下のパフォーマンスも発揮されます。逆に、ウマが合わなければ、双方が不快と不信によって信頼関係を構築できず、その結果部下のパフォーマンスは、だだ落ちしていきます。
これは、多くの人にとって、納得できる設定だと思います。
なお、シミュレーションのソースコードはこちらです。
上司も部下も、6つのタイプからなる性格(A〜F)を持っており、隣り合う性格は類似しているものとします。
例えば、Cの性格の上司と、Cの性格の部下は、相性ドンピシャですが、部下の性格がCから(D→E→F、あるいはB→A)と離れるごとに、お互いの相性が悪くなっていきます。そして、相性が悪くなると、部下のパフォーマンスも低下していくものとします。
さらに、上司には「度量」という数値パラメータを付与しています。
例えば、Cの性格の上司が度量=1であった場合は、性格Cの部下だけでなく、性格Dや、性格Cの部下とも良い相性を維持できるものとします。この場合、性格Cの上司は、性格Dや性格Cの部下のパフォーマンスも最大にすることができます。
このように、このシミュレーションでは、上記の「上司の性格」と「上司の度量」と、「部下の性格」によって変化させて、100人の部下のパフォーマンスの平均値を計算します。
なお、100人の部下の性格は、乱数で適当に決めています。職場には、いろいろな性格の部下がいるはずですから。なお部下の度量は全て"0"としています。部下に度量を求めるような職場を想定することには『無理がある』と思ったからです。
では、シミュレーション結果を、以下に示します。
シミュレーションする前から、ある程度の予想はできていたのですが、度量の広い(度量=5)上司の元では、100人の部下全員が最高のパフォーマンス(120%)を発揮できています。
逆に、度量がない(度量=0)上司の元では、部下の平均パフォーマンスは、50%以下にまで落ち込み、最悪、100人の部下の平均パフォーマンスが14%しか発生できない職場が登場します。
また、上司の性格は、極端(例えば、性格Aとか性格F)であるよりは、むしろ、中庸(あるいは凡庸)(例えば、性格CとかD)である方が、部下のパフォーマンスが発揮しやすいことが分かります。
つまり、(例えば、自分の技術に絶対的な自信と信念があるような)「切れ者」の上司の存在は、逆に、部下のパフォーマンスを低下させやすくなることが、数値でも確認できています。
このシミュレーション結果が示すことは、組織にとっては、有能で自己パフォーマンスが高い上司が望ましいのではなく、むしろ、凡庸であっても部下の能力に合わせた柔軟な対応ができる上司の方が、「圧倒的」に望ましい人物であるという事実です。
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