Qualcomm買収を阻止した大統領令、戸惑いの声も:米政府の業界介入が増えるのか(1/2 ページ)
BroadcomによるQualcommの買収劇は、大統領令によって終止符を打たれた。業界の中には、今回の発令に対する戸惑いの声もある。
大統領令の発令に戸惑いの声も
トランプ米大統領は、大統領令を発令して、BroadcomによるQualcommの敵対的買収を禁止したことにより、株主総会で決議が行われる前に買収を阻止するという先例を作った。アナリストたちは、こうした大統領令の発令が果たして良いことなのかどうか、複雑な感情を抱きながらも、「Broadcomをはじめ、半導体業界では今後も、大規模な合併買収が続く」との見方で一致しているようだ。
米国の市場調査会社であるTirias Researchで主席アナリストを務めるKevin Krewell氏は、「トランプ大統領は2017年9月にも、Canyon Bridge Capital Partners(以下、Canyon Bridge)による米Lattice Semiconductorの買収を阻止している。ただ、この買収案件は、規模がかなり小さく、買収側の未公開株式投資ファンドCanyon Bridgeが中国政府から資金提供を受けていたという背景もある」と指摘する。
今回のトランプ政権の措置により、代理投票だけでなく、対米外国投資委員会(CFIUS:The Committee on Foreign Investment in the United States)による調査計画も実施されないことになった。ただし、CFIUSは文書の中で、「BroadcomによるQualcommの買収によって、5G(第5世代移動通信)技術を失うことになるのではないか」とする強い懸念を表明していた。
米国の市場調査会社であるIC Insightでシニアアナリストを務めるRob Lineback氏は、「政府が物事を事前に阻止するのは、正しいことなのだろうか。国家安全保障上の懸念などを理由に、株主の権利を奪い取ることになる。このような状況は今まで一度もなかった」と述べている。
難問を抱えたCEO(最高経営責任者)たちは今後、今回のQualcommの例から、「技術的な優位性を確保しさえすれば、株主ではなく規制当局に対して自らの主張を論証することで、成功を収められるのではないか」という教訓を得ることになるだろう。Lineback氏は、「問題なのは、将来的に何が起こるのかという点だ。今後、“先制攻撃”によって阻止するケースが増えるのではないだろうか」と問いかけている。
また、米国の市場調査会社であるThe Linley GroupのベテランアナリストLinley Gwennap氏も、Lineback氏の見方に同意している。
Gwennap氏は、「このような状態に歯止めはかかるのだろうか。どのような技術、ビジネス関連の契約が国家安全保障上重要だと考えられるのかについて、誰が把握するのだろうか。Intelが、中国政府系の投資会社傘下にあるSpreadtrum Communicationsとの間で、5G技術を共有する契約に合意しているが、これについても懸念があると見なされるのだろうか」と疑問を呈している。
Lineback氏は、「例えば、日本政府は2017年に、東芝の半導体事業の所有権を国内に保持するための契約を締結するにあたり、重要な役割を担っている。中国をはじめ他の国々は、政府が自国の技術産業を積極的にサポートすることで知られているが、米国はこれまで、こうした分野においてあまり積極的ではなかった」と指摘する。
アナリストの中には、「政府が積極的に関与するのは良いことだ」という見解を示す者もいる。
市場調査会社であるInternational Business Strategies(IBS)のCEOを務めるHandel Jones氏は、「米国政府は、国内の技術を重要視するという新たな方向に進んでいる。米国政府は、適切な投資を実行できていないことを認識するようになってきた。アピールできるようなものが何もないのだ。Tesla Motorsは、優れた電池を開発しているが、量産に十分対応できるような製造能力を保有していない」と述べる。
同氏は、「中国は、北京〜上海間の衛星リンクを使って量子通信の最先端研究を進めている。米国は、同分野でリーダー的ポジションを維持し続けるための大規模な投資を行ってはいない。米国には量子通信の基地局を運営する企業はないのだ。また、5Gは今後、大きな影響力を持つ技術になるだろう」と付け加えた。
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