中堅研究員はAIの向こう側に何を見つけたのか:Over the AI ―― AIの向こう側に(23) 最終回(5/10 ページ)
約2年続いてきた本連載も、いよいよ最終回です。「中堅研究員はAIの向こう側に“知能”の夢を見るか」と名付けた第1回から2年間。筆者が“AIの向こう側”に見つけたものとは、何だったのでしょうか。
第3次AIブームに対する仮説と疑問
現在進行中の第3次AIブームで、しょせんは「私たちは、踊らされるだけのピエロか」と問われれば、迷うことなく私は"Yes"と答えますが ―― ぶっちゃけ、私は不愉快です。
そこで、今回私は、誰が仕掛けたか分からない(というか、これが、われわれ全員による共同幻想の産物であることは、この連載で述べてきましたが)、このAIブームの渦中にあって、ブームに踊っている人たちを出し抜いて、このブームの後に勝者として立っている方法について検討しました。
では、ここからは、本連載のラストを飾るテーマとして「AIブームの終焉(End of the Boom)」後の未来を生き残る「Over the AI ―― AIの向こう側の私たち」を、始めたいと思います。
まず、私が、今回の連載を通じて、常に抱いていた、この第3次AIブームに対する仮説と疑問を、書き下してみました。
これは、AI技術の技術的、経営コスト的な問題点に加えて、AI技術が「ソフトウェア」という資産性を有しつつも、それらが、商品や、商品以外の無体財産物(特許、デザイン、商標、ブランド、キャラクター、イラストなど)とは決定的に異なる性質を有する、という観点から、私なりに導き出したものです。
ぶっちゃけて言えば、資金や人材が潤沢で、研究開発に余裕のある会社でもない限り、「AI技術のビジネスに手を出すべきではない」です。
先行者利益は得られないかもしれませんが、有体物(商品)と異なり、ソフトウェア技術というものは、一つの法人(国家や組織)が独占的に所有することが難しく、また、そのように独占的に所有した場合、技術的な発展が見込めないという、特殊な性質があるからです。
また、「儲からない人工知能 〜AIの費用対効果の“落とし穴”」にもある通り、AI技術の費用対効果は、絶望的に低い ―― 現時点において、私は、AI技術で「儲かって笑いが止まらない会社」を、ただの1社も知りません*)。
*)ここだけの話ですが、私はその逆のケース『AI技術と手を切りたい』と泣きが入っている会社も知っています(もちろん、墓場まで秘していきますが)。
そもそも、AI技術でビジネスをするには、以下の3つの問題点があるのです。
この3つはそれぞれが深刻な問題なのですが、さらに、この問題が相互に矛盾している点が、さらに問題なのです。
1つのAI技術を試すには、そのAI技術だけではなく、そのAI技術を試す現実の環境が必要となります。AI技術開発よりも、その環境を作るコストの方が、とんでもないコストが掛かるのです。
例えば、「缶詰工場」でAI技術を試すには、実際に「缶詰工場」のラインを新規に作らなければなりません(既設の設備を使えば、現在の業務(製造)を止めなければなりません)。さらに、再稼働に失敗すれば、新規の「缶詰工場」のラインを破壊してしまう可能性があります。
そして、その「缶詰工場」のAI技術を使うためには、膨大なトライアンドエラー(チューニング)が不可欠であり、これに必要となる時間と人材が、もうお話にならないくらい、ものすごいコストになるのです。
そして、「缶詰工場」のラインがようやく動き始めたころに、新しい破壊的かつ革新的な新しいAI技術(深層学習やら、強化学習やら)が登場してきて、その「缶詰工場」は、あっという間に陳腐化した工場に成り下がることになります。
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