情報社会の大いなる“裏方”、光伝送技術:光伝送技術を知る(1)(1/3 ページ)
地球上に、網の目のごとく張り巡らされている光ファイバーネットワークなど、光通信は、われわれの生活に身近な技術である。だが、専門外の技術者にとっては「難しそうで近寄りがたい分野」だと思われているようだ。この連載では、おさえておきたい光伝送技術の基礎と現在のトレンドを分かりやすく解説していく。
地球上に、網の目のごとく張り巡らされている光ファイバーネットワークなど、光通信は、われわれの生活に身近な技術である。だが、専門外の技術者にとっては「難しそうで近寄りがたい分野」だと思われているようだ。この連載では、おさえておきたい光伝送技術の基礎と現在のトレンドを分かりやすく解説していく。
「地球を5回まわれ」
ずいぶん昔の話で恐縮ではあるが、1968年、NHKの「みんなのうた」で放送された「地球を七回半まわれ」はテンポが良く、子供によく歌われた曲の一つである。
地球の周囲は4万km、光速が毎秒30万kmなので、光は1秒間に地球を7周半進める速さなのだという事を、この歌は示している。筆者は、子供心に、地球表面に沿って光線がぐるぐると7回半回るイメージを持った(もちろん、光は直進するので、物理学的には間違ったイメージであるが……)。
しかし、イメージは違った形で現実化した。現在、地球上を光ファイバーケーブルが敷設され、データを乗せた光が地球をぐるぐる回っているのだ。
ただし、歌と異なるのは、光は、光ファイバーの中を1秒間に20万kmしか進めないことだろう*)。つまり、「地球を5回まわれ」である。
*)物質内を進む光の速度は屈折率分の一になり、光ファイバーの光の通り道であるガラスの屈折率は約1.5だからである。
光伝送技術は、さまざまな分野で活用している。例えば、携帯電話の基地局間では、ほとんど光ファイバーを通じて音声データや情報が伝送されている。テレビやインターネット、電話のサービスも光ファイバーを介して多くの家庭に提供されている。データセンターでは百万本近い光ファイバーが敷設され、工場では光ファイバーを導入してスマートファクトリーを実現しようとしている。航空機や船舶には既に搭載されていて、自動車にも導入され始めているのだ。
現代の情報社会は、光伝送技術なしには実現できなかったといっても過言ではない。スマートフォン、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、クラウド、第4次産業革命(インダストリー4.0)など、光伝送技術の適用範囲の拡大や新技術の開発は大いに期待されている。
実は筆者は、展示会などでの質問や会話から、「光伝送技術は専門性が高く、近寄りがたいと思っている技術者が多いのではないか」と、常々感じてきた。それが、本連載を始めるきっかけにもなっている。そこで、本連載では、光が専門ではない方に向け、光伝送技術の基礎として、多岐にわたる応用範囲や、そこで使用されている光部品・モジュール、それらを実現する技術に関して解説していきたい。
なお、連載では「分かりやすさ」を最優先とするため、専門用語の厳密性については、いろいろな不備があるかもしれないが、ご容赦いただければ幸いだ。参考文献は、インターネットで閲覧できるものを意識的に選んでいるので、ぜひ参照していただければ、より深く知識を得られるかと思う。
さて、第1回は光伝送技術の応用を紹介する。光伝送技術は、極めて幅広い分野で使われているので、全てを紹介しきることは難しいのだが、大まかなイメージを持っていただければと思う。
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