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NXP買収を断念したQualcommの誤算(前編)完了目前での意外な結末(1/2 ページ)

完了間近とされていたQualcommによるNXP Semiconductorsの買収は、中国当局の承認を待たずに、まさかの「断念」という結果で終わった。モバイル向けICの王者は何を見誤ったのか。

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 報道によると、QualcommのCEOであるSteve Mollenkopf氏は、「われわれの敵は、米国内だけでなく、世界中に存在する。当社が440億米ドルを投じてNXP Semiconductors(以下、NXP)を買収する計画は、われわれの手に負えない困難な環境の中国によって、断念させられる結果となった」と述べたという。誰かを非難する方が、自ら深くかかわるよりもずっと簡単だが、Qualcommが競争環境を読み誤ったという失敗も、同社に責任があるのだろうか。

 こうした疑問が生じるのももっともなことだ。QualcommとNXPのこれまでの道のりでは、多額のコストが発生している。QualcommはNXPに対し、違約金20億米ドルを支払ったが、その背景にある目に見えないコストは、違約金を超える膨大な金額に達するとみられる。両社は、これまで約2年間にわたり、不透明な状況が長引く中、耐え忍んできた。現在も、顧客企業の混乱状態が突発的に発生している中、多くの従業員たちは、安堵のため息をつきながらも、自分たちが企業の中で、どこに正確に所属しているのかを判断しなければならないという状況に置かれている。

 Qualcommは現在、失敗に終わったNXP買収から立ち直ろうと動いている。いや、動かなければならないのだ。しかし、その失敗から分かることや学べることがあるとすれば、それは業界全体に適用できるだろう。

 半導体業界史上、最大規模となる合併買収が、そのメリットを享受できたであろう顧客企業をはじめ、さまざまな方面からの反対を受けたために、失敗に終わったのである。ただ単に、不透明な要因や、顔の見えない規制当局に対する非難を取り除くだけでは、業界は、今回の経験から何も学ばずに終わってしまうだろう。今回の取引は、失敗に終わる運命だったのかもしれないし、もしかしたら、もっとうまく対応できていれば成功していたのかもしれない。なぜ今回の合併買収が決裂に終わったのかを徹底的に調査することにより、将来の合併買収取引にも適用できるような教訓を得られるのではないだろうか。

当初から不信感は、あった


画像はイメージです

 今回、最初から議論に没頭していたのは、労働組合だった。Qualcommは、2016年10月に合併買収を発表した当初から、発生し得るメリットについて、根強い不信感を持たれてきた。両社を悩ませた問題としては、高額なプレミアを要求したのではないかとされるNXPの投資家たちの他、警戒心を抱いた規制当局がQualcommを質問攻めにしたことで、さらなる寡占化が進むのではないかという不信感があおられた、などがある。さらに、Qualcommの一部の顧客企業が、現在および将来においてロイヤリティーの支払い額を減らそうと、“言いたい放題”だったという点も挙げられる。

 そしてQualcommは最終的に、中国の冷酷な沈黙に直面して意気消沈し、降参する結果となった。

 Mollenkopf氏は、アナリストに向けたプレゼンの中で、「NXP抜きに前進することは、われわれにとって困難な決断だった。このような大規模な買収において、不透明な状況が差し迫ると、リスクが高まることになる。既存の地政学的環境の中で起こり得る、変化に対するリスクについて比較検討したところ、高い成果を生み出す可能性があるとは確信できなかった」と述べている。

 疑問なのは、Qualcommの取締役会が、買収で直面したであろう数々の問題に気付いていたのかということである。加えて、欧米やアジア諸国の規制当局から承認を得た後、Qualcommはなぜ中国の承認を待てなかったのかという点も気になる。中国は両社を1年以上も待たせ続けてはいたが、ゆくゆくは立場を示さなければならなかったはずだ。Qualcommの経営陣や取締役会は、外部の観測筋にとっては既に明らかだったこと(つまり、取引を成立させるには、NXPの株主に相当の額を支払わなければならないこと)に、ようやく気付いたということだろうか。

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