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誰がドライエッチング技術を発明したのか湯之上隆のナノフォーカス(2) ドライエッチング技術のイノベーション史(2)(4/5 ページ)

前回に引き続き、ドライエッチング技術におけるイノベーションの歴史を取り上げる。今回は、ドライエッチング技術の開発を語る上で欠かせない、重要な人物たちと、彼らが発明した技術を紹介する。

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3-2)IBMの発明

 日電バリアンとは別に、IBMもプラズマによるイオンアシスト反応を用いたエッチングを発明する。

 まず、IBMのPieter D. Davidseが、不活性ガスのスパッタによりウエハ上の不純物などを除去する方法を発明し、1966年4月4日に“Etching Method”という特許を出願する(US 3,598,710)。

 次に、Lawrence V. Gregor、Leon I. Maissel、Charles L. Standleyの3人が1969年6月18日に、“Apparatus and Method for Sputter Etching”という特許を出願する(US 3,617,463)。この特許でGregorらは、スパッタエッチングにより、ウエットエッチングで生じるアンダーカットを防止し、SiNのエッチング速度が増大することを示した。

 そして日電バリアンによるRISの発明から1年半以上たった1975年5月22日に、Joseph M. Harvichuck、Joseph S. Logan、William C. Metzger、Paul M. Schaibleの4人が、“Reactive Ion Etching of Aluminum”の特許を出願した(US 3,994,793)。

 Harvichuckらは、図5に示す装置を用いて、CCl4、HCl、Cl2、CBr4、HBr、Br2、I2などのプラズマで、AIが高速にエッチングできることを発明した。そして、このエッチングをRIEと呼び、その後、IBMは怒涛(どとう)の勢いでRIEに関する特許出願や論文発表を行った。


図5:IBMが発明したリアクティブ・イオン・エッチング(RIE)(クリックで拡大)

 1977年9月13日にJames Allan BondurとHans Bernard Poggeは、“Method for Forming Isolated Regions of Silicon Utilizing Reactive Ion Etching”を出願した(US 4,104,086)。Bondurらは、Arと塩素などの混合プラズマにより、Si基板のRIEを発明した。これにより、RIEによる素子分離が可能となった。

 同年10月には、G.C. Schwartz、L.B. Rothman、T.J. Schopenが、Electrochemical SocietyのMeetingにて、“Competitive Mechanisms in Reactive Ion Etching in a CF4 Plasma”という発表を行い、論文も投稿した(G.C. Schwartz, et.al., J. Electrochemical Soc., 126, 464, 1979)。この発表でSchwartzらは、CF4を用いたSiとSiO2エッチングにおいて、ラジカルによるエッチングをイオンがアシストすることを述べている。

 このようにIBMが矢継ぎ早にRIEの発明を行ったために、半導体業界にはRIEという言葉が定着し、日電バリアンの細川らの業績は忘れ去られていった。

3-3)イオンアシスト反応の原理を解明したのは誰か

 ドライエッチング関係のどの本を見ても、RIEにおけるイオンアシスト反応の原理を解明したのは、IBMのJ. W. CoburnとH.F. Wintersということになっている。実際、彼らは、以下の論文で、RIEのイオンアシスト反応を極めて明快に説明している。

  • J.W. Coburn and H. Winters, J. Apple. Phys., 50, 3189 (1979).
  • J.W. Coburn and H. Winters, J. Vac. Sci. Technol., 16, 391 (1979).

 その中でも、最も有名な実験を図6に示す。SiにXeF2ガスのみを照射したときのエッチング速度は約0.5nm/minである。また、Arイオンだけを照射したときのエッチング速度も1nm/min以下と遅い。ところが、XeF2とArイオンを同時に照射すると、Siのエッチング速度が約6nm/minに増大する。この実験結果から、CoburnとWintersは、XeF2とArイオンを同時照射することにより、イオンアシスト反応が起き、飛躍的にエッチング速度が増大することを導き出した。


図6:CoburnとWintersによるイオンアシスト反応のエッチング実験(クリックで拡大)

 しかし、特許や論文を詳細に調べると、RIEのイオンアシスト現象を初めて発見したのは日電バリアンの細川らであり、そのイオンアシスト反応の原理を初めて説明したのはIBMのSchwartzらであることが分かった。

 CoburnとWintersの業績は、RIEにおけるイオンアシスト反応の原理を科学的にかつ体系的に説明したことにある。一方、その陰には、日電バリアンの細川らやIBMのSchwartzらの貢献があったことを忘れてはならないだろう。

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