固体/液体界面の電気二重層を真空中で精密解析:電気化学反応を原子レベルで理解
理化学研究所(理研)らの共同研究グループは、固体/液体界面に形成される「電気二重層」の状態を、溶液中および真空中で精密に測定できる「複合計測システム」を開発した。
電気二重層キャパシターなどを効率よく設計
理化学研究所(理研)開拓研究本部Kim表面界面科学研究室のRaymond A.Wong(レイモンド・ウォン)特別研究員や横田泰之専任研究員、金有洙主任研究員らによる共同研究グループは2018年11月、固体/液体界面に形成される「電気二重層」の状態を、溶液中および真空中で精密に測定できる「複合計測システム」を開発したと発表した。今回の成果により、電気二重層のイオン分布や酸化還元反応の進行を精密に分析することが可能となる。
電解質溶液の中で電極に電圧を印加すると、プラス電極の近くに陰イオン、マイナス電極の近くに陽イオンがそれぞれ多く分布し、それぞれ厚み1nm程度の電気二重層が形成され、固体/液体の界面近傍に大きな電位差が生じる。一般的にイオン濃度が高いほど層の厚みは薄くなるという。
蓄電池や電気二重層キャパシターといった電気化学デバイスの性能をさらに向上させていくには、電気二重層を詳細に評価する必要がある。ところが、現行の「その場計測」や「オペランド計測」では精密な計測が難しかったという。
そこで研究グループは、溶液中の電気化学反応と真空中の光電子分光を同一試料で測定できる複合計測システムを開発した。この計測システムは、「溶液中の電気化学測定」から、電極を引き上げて「真空中の光電子分光測定」までを繰り返し行うことができる。
具体的に、電気化学測定では、電気二重層における酸化還元反応の進行状況を測定する。光電子分光測定では、存在する元素の状態や、分子がどれくらい酸化されやすい状態か、印加電位は保持されているか、などの情報を得ることができるという。
研究グループは、溶液から引き上げられた電極が、その後も電気二重層の情報を保持しているかどうかを検証した。このために、「フェロセン」という錯体分子をプローブとして電極に固定、電気化学測定と光電子分光測定を行い化学的な状態を追跡した。
まず、過塩素酸ナトリウム(NaClO4)電解質の溶液に、電圧0.1〜0.5Vを印加し電気化学測定を行った。この結果、フェロセン分子の酸化数が約0.1Vの印加電圧で「0」に、約0.5Vでは「+1」となり、この間を可逆的に切り替わることが分かった。
続いて、酸化数が「0」と「+1」の状態で、それぞれプラスの電極を溶液からゆっくり引き上げ、真空中に移動してX線光電子分光測定を行った。そうしたところ、真空中でもフェロセン分子の酸化状態は保たれており、酸化数が+1のときに、陰イオンの過塩素酸イオン(ClO4-)と微量の水分子(H2O)が検出された。さらに、高分解能の紫外光電子分光測定を行った。電子放出に関する仕事関数の値の可逆変化によって、溶液中での印加電位の違いが真空中でも保持されていることが分かった。
今回は、光電子分光測定で精密な解析を行った。走査プローブ顕微鏡による測定などを組み合わせることで、電気二重層のイオン分布状態や酸化還元反応の進行状況なども、より詳細に解析できるとみている。
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