2023年までに量子コンピュータの実用化を目指すNEC:コヒーレント時間1ミリ秒(1/3 ページ)
NECは、2023年までに、1ミリ秒と長いコヒーレント時間を持つアニーリング型量子コンピュータ(量子アニーリングマシン)を本格的に実用化すべく、開発を進めている。
NECは2019年1月16日、報道機関向けに量子コンピュータの勉強会を行い、量子コンピュータ技術の動向やNECの取り組みについて説明した。
説明者を務めたNEC中央研究所 理事の中村祐一氏は、「『ムーアの法則』をはじめ、これまでのコンピュータに用いられている技術では大幅な演算性能の向上が難しくなっている中、量子コンピュータという新しい計算機に対する期待が高まっている」と語る。さらに、量子コンピュータの実現がまったくの“夢物語”ではなくなっていることも、量子コンピュータに大きな期待が寄せられている理由の一つだと、中村氏は続ける。
ゲート型の実用化はまだ遠い
量子コンピュータは、ゲート型とアニーリング型の2つに大別される。どちらも、「0と1を同時に表現する」という量子重ね合わせの原理を使って高速計算を行う点では変わらないが、スペックと応用例は大きく異なる。
例えば実装ビット数は、現時点で存在するゲート型量子コンピュータでは70ビットなのに対し、アニーリング型では、カナダのD-Wave Systemsのマシンで2000ビットとなっている。コヒーレント時間(量子重ね合わせを維持できる時間)は、ゲート型が最大で100マイクロ秒なのに対し、アニーリング型では30ナノ秒だ。
使用目的では、ゲート型は、現在使われている汎用計算機の置き換えを狙い、主に素因数分解への応用が期待されている。一方のアニーリング型が得意とするのは、組み合わせ最適化問題だ。配達の最短経路や渋滞回避ルートを割り出すことなどに役立つ。アニーリング型では、最適な組み合わせを探す「試行」の回数を、量子重ね合わせの原理によって圧倒的に増やせるので、組み合わせ最適化問題に適しているといわれる。
中村氏は、「ゲート型とアニーリング型の量子コンピュータは、使う目的もスペックも異なるので、全く違う計算機として扱うことが適切だ」と説明する。
現時点で実用化が進んでいるのはアニーリング型だ。先述したD-Wave Systemsのマシンは既にGoogleとNASA(米航空宇宙局)、USRA(米大学宇宙研究連合)が共同で運用している。一方のゲート型は実用的な性能を備えた実機がなく、「実用化には30〜50年かかる可能性もある」(中村氏)という。
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