マイコンを取り巻く“東西南北”にみるIoT時代のマイコンビジネスの在り方:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(32)(2/3 ページ)
今回は、マイコンメーカー各社が販売する開発評価ボードを詳しく見ていく。IoT(モノのインターネット)の時代を迎えた今、マイコン、そして開発評価ボードに何が求められているのかを考えたい。
複数の基板で構成されるルネサス「AE-CLOUD2」
図2は、ルネサスのAE-CLOUD2のボード群の様子である。ボード群というのは基板が3枚に分かれているからだ。通常この手の開発評価ボードは1枚の基板であることがほとんどだが、AE-CLOUD2は3枚の基板で構成されている。
Qualcommの「Dragonboard」やNXP Semiconductorsの「i.MXキット」なども1枚。3枚基板はないわけではないがかなり珍しい……。
基板上には通常基板を開発したメーカーのロゴや情報がどこかに記載されている。図2のようにAE-CLOUD2は、さまざまな国のメーカーが開発、製造した基板やモジュールを組み合わせたものである。中国製の通信モジュール、中国や米国メーカー製ボード、さらにルネサスのメインボードという構成だ。
多国籍ボードという言い方もできるだろう。このような構成は現在では少数だ。多くのマイコンメーカーは最終製品への搭載も見据えて、開発評価ボードでも、コンパクトな1枚の基板にセンサー群から各種通信機能やネットワーク端子を実装しているからだ。
マイコンはマイクロコントローラーの略。マイクロチップなのでわずか数ミリ角サイズのシリコンである。せいぜい数センチ角のパッケージに収め、そこにマイコンと同じようなサイズの通信チップやセンサーチップをつなぐだけである。基板が3枚に分かれる理由など実際にはないはずだ。(メインのマイコン基板に既存の通信基板を付加したため、3枚構成になったと思われる)
AE-CLOUD2の機能を用いてシステムを開発することはできるが、3枚基板のままで最終製品化するにはサイズが大きすぎるだろう。実際ユーザーは評価の後、自身の所望のサイズに再設計しなければならない可能性が高い。一方でSTのボードは1枚の基板で構成されており、体積も小さく、そのままで使えるサイズだ(Raspberry Piとほぼ同サイズ)
全体最適が図られた半完成品
表1は、ルネサスのAE-CLOUD2、STのIoT node、それぞれの基板に搭載されるセンサーの一部を比較したものである。
STはドイツのBoschに並ぶMEMSセンサーのトップメーカーである。STのマイコンに接続されるセンサー群は全てST製のセンサーである。一方、AE-CLOUD2が搭載するセンサーは1つを除いて、欧米のセンサーメーカーの製品を採用している。Bosch製やKnowles製のセンサーが並ぶ。いずれも採用実績が豊富なセンサーだ。
AE-CLOUD2が対応するLTE-M/NB-IoT、Wi-Fiといった通信機能は、いずれも米Qualcommのチップおよび、チップセットが活用される。AE-CLOUD2が最も多く搭載しているのは、ルネサス製チップではなく、Qualcomm製チップである!!(この時点でどのメーカーの評価ボードかわからなくなる……。QualcommのモデムプロセッサにはArmのCortex-A7コアが搭載されているため、多くの製品では外付けマイコンなしで、Qualcommチップだけでエッジ処理を行っているからだ)。一方、STマイクロのIoT nodeの通信のうち、Bluetoothとサブギガヘルツ無線はST製チップが用いられ、Wi-Fiのみ米Cypress Semiconductor製が採用されている。
チップセット、キット、プラットフォームという言葉が半導体業界で使われて久しい。スマートフォンやSSD、テレビなど多くの分野で入口から出口まで単一メーカーでチップ供給できるかどうかで勝敗が分かれてきた歴史がある。
“点”であるデバイスの部分最適化と、チップセットという“面”での全体最適化との間で大きな差が生まれてきた。
後者の全体最適化したチップセットは半完成品といえる。半完成品はシステムの骨格がキット化されており、ユーザーは手間が省け、自身の差別化領域に集中できる。ルネサスのAE-CLOUD2は、システムを組む時にはセンサーから通信チップ/モジュールまでをユーザーがさまざまなメーカーから調達する必要がある。一方、IoT nodeであれば、マイコンだけでなく、センサーから通信用チップまで、ST、1社に頼れば済む。
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