現行世代メモリと次世代メモリの違い:福田昭のストレージ通信(138) 半導体メモリ技術動向を総ざらい(1)
フラッシュメモリとその応用製品に関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」。最近のFMS(2018年8月に開催)で公表された情報の1つに、半導体市場調査会社MKW Venture Consulting, LLCでアナリストを務めるMark Webb氏が「Annual Update on Emerging Memories」のタイトルで述べた、半導体メモリの技術動向に関する講演がある。その内容が興味深かったので、講演の概要をシリーズでお届けする。
半導体メモリ技術の動向を現行世代から次世代まで解説
フラッシュメモリとその応用製品に関する世界最大のイベントが、「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」だ。毎年8月に、米国カリフォルニア州サンタクララで開催される。FMSは講演会と展示会で構成されており、来場者は製品や技術、産業などのさまざまな情報を得られる。最近のFMS(2018年8月に開催)で公表された情報の1つに、半導体市場調査会社MKW Venture Consulting, LLCでアナリストを務めるMark Webb氏が「Annual Update on Emerging Memories」のタイトルで述べた、半導体メモリの技術動向に関する講演がある。その内容が興味深かったので、講演の概要をシリーズでお届けしたい。
なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
Webb氏の講演は大別すると、現行世代のメモリに関する技術動向と、次世代のメモリ(Emerging Memories)に関する技術動向に分かれる。現行世代のメモリに関する技術動向から、次世代のメモリが必要となる理由を説明する。そして、代表的な次世代メモリの技術動向と特長、課題を解説する。全体としては、半導体メモリの技術動向を総ざらいした内容になっている。
現行世代のメモリと次世代のメモリを一覧表で比べる
Webb氏の講演では、現行世代のメモリの具体的な事例としてDRAMとNAND型フラッシュメモリ(3D NANDを含む)を挙げた。次世代メモリの具体的な事例としては、MRAM(磁気抵抗メモリ)、3D XPointメモリ(スリーディークロスポイントメモリ)、ReRAM(抵抗変化メモリ)、NRAM(カーボンナノチューブメモリ)、「その他のメモリ」、を挙げていた。そしてこれらのメモリの特長をレイテンシ(アクセスの遅延時間)、記憶密度、コスト、開発段階の4つの指標から、5点法(5点が最も優れている)で採点した一覧表の形で示していた。
現行世代のメモリは当然ながら、5点となっている特性が少なくない。DRAMはレイテンシが5点(非常に短い)、開発段階が5点(大量生産中)であり、記憶密度とコストも優れている。NANDフラッシュは記憶密度が5点(密度が最も高い)、コストが5点(コストが最も低い)、開発段階が5点(大量生産中)と非常に優れる。ただしレイテンシは1点で、メモリアクセスの遅延時間が長いという弱点がある。
対する次世代のメモリは、5点の特性があまりなく、1点という問題点が少なくない。MRAMはレイテンシが5点(短い)と高速ではあるものの、記憶密度が1点(最も低い)、コストが1点(最も高い)と大きな弱点を抱える。3D XPointメモリは5点が1つもない。記憶密度は4点、コストは4点で、DRAMとNANDフラッシュメモリの中間に位置する。ReRAMも5点が1つもない。記憶密度は4点、コストは4点とそれなりに優れているものの、開発段階では2点と低い評価にとどまっている。NRAMと「その他のメモリ」は、全ての項目が3点以下であり、Webb氏による現状の評価は厳しい。
(次回に続く)
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