ルネサスの工場停止は愚策中の愚策 ―― 生産停止でコストが浮くは“机上の空論”:湯之上隆のナノフォーカス(11)(3/4 ページ)
ルネサス エレクトロニクスは2019年4月以後に工場を停止する計画だという。2018年第4四半期までのルネサスの業績を見る限り、「中国や米国での需要減少」や「自動車や産業用ロボットの半導体需要の減少」では、前代未聞の工場停止を説明できない。もし、工場を止めた場合、再立ち上げにどのような労力が必要となるかを示し、いかなる事情があろうとも工場を止めるべきではない。
用途別半導体の売上高の推移
図4に、ルネサスの用途別の半導体売上高の推移を示す。ルネサスは、2014年第1四半期と2017年第2四半期の2回、セグメントの分類を変えている。
まず、2011年から2013年までは、主として自動車などに使われるマイコン、アナログ&パワー半導体、デジタル家電などに使われるSoC(System on Chip)の3本柱で売上高が構成されていた。
この中で、SoCが赤字を垂れ流す元凶であったため、四半期ごとの売上高で、2010年に約800億円あったものを、2013年には半分の約400億円に縮小している。
一方、ルネサスの大きな収益源であるマイコンは、2014年以降は、“自動車向け半導体”とセグメント名を変え、四半期ごとの売上高で約800億円から約1000億円へとビジネスを拡大させている。
一方、2013年までは、アナログ&パワーおよびSoCに分類されていた半導体は、2014年以降は“汎用向け半導体”に統合された。そして、汎用の中のSoCをさらに縮小することにより、2014年第1四半期に約1200億円あった売り上げは、2016年には800億円前後にまで減少させた。
さらに、2017年第2四半期以降は、汎用向け半導体を、“産業向け”と“ブロードベース向け”に分けた。この内、産業向け半導体は2017年第4四半期に約600億円の売上高を記録したが、その後、2018年第3四半期に420億円に減少し、第4四半期には430億円に持ち直した。
確かに、日経新聞が報じている通り、産業向け半導体は、約600億円から一時期約420億円に減少している。しかし、この程度の売上高の減少で、国内外の13工場が操業停止になるとは考えられない。また、もう一つの要因とされる自動車向け半導体は、1000億円前後を維持しており、減少する気配が見えない。
以上から、自動車用および産業用半導体の大きな需要減少は、ルネサスの業績からは見てとることができないため、これらが工場停止の理由にはなり得ない。
結局、なぜ工場を止めるかは分からない
ここまで見てきた通り「米中の半導体の需要減少」および「自動車や産業用ロボットの半導体需要の減少」では、ルネサスが工場を停止する理由が説明できない。
本当のところは、2016年の熊本大震災以降、突発的な事態が起きてもビジネスを維持できるように事業継続計画(Business Continuity Plan/BCP)を強化した結果、ルネサスは過剰在庫を抱えるに至り、その在庫を一掃するために工場稼働率を60%程度まで下げたが、そこまで下げるのなら、いっそのこと工場を止めた方が経済的に有利、と判断したからではないか?
または、2017年2月に約3200億円で買収したインターシル(Intersil)の影響かもしれない。というのは、インターシルのビジネスは、2009年以降、半導体売上高の約75%がアジア向けであり、そのほとんどが中国向けであるからだ(図5)。したがって、中国経済の失速が、インターシルのビジネスに大打撃を与えた可能性がある。
ついでに言うと、2019年3月29日(米国時間)に約7300億円で買収が完了したIntegrated Device Technology(IDT)のビジネスも、恐ろしいことに、中国を主力とするアジア向けが約70%を占めている(図6)。
米中ハイテク戦争の行方が不透明であることを考えると、巨額資金を投じたIDTがルネサスの“爆弾”になりかねない。
しかし理由が何であれ、ルネサスは工場を止めるべきでない。というのは、いったん止めた工場を再立ち上げするのには、膨大な労力と時間がかかるからだ。その詳細を以下に示す。
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