エッジAIこそ日本の“腕の見せどころ”、クラウドとの連携も鍵:IHSアナリスト「未来展望」(17)(2/3 ページ)
今回は、業界で期待が高まっている「エッジコンピューティング」を解説する。AWS(Amazon Web Service)やMicrosoft、半導体ベンダー各社も、このトレンドに注目し、取り組みを加速している。
高まるエッジコンピューティングへの期待
最近、盛んに取り上げられ始めたエッジコンピューティングは、後者3つの課題解決に効果がある。従来はクラウドまでデータを送信して行っていた処理をエッジコンピューティングに収束させることで、エッジ端末によるレイテンシの向上、ネットワーク使用頻度の最小化(帯域幅の節約)、生データアクセスの最小化によるセキュリティ向上を図ることができる。
このエッジコンピューティングには、コンピューティング性能の高い順に、
- エッジ端にあるデータサーバ内制御コンピュータ
- エッジ端にあるゲートウェイおよび制御コンピュータ
が代表的であるが、特にここで取り上げたいのは、ゲートウェイやセンサーのより近くに存在するマイクロコンピュータ(マイコン)だ。
従来は、クラウドやデータサーバにあるIntelの「Xeon」など大規模な処理能力を持つプロセッサ(CPU)で対応していた処理の一部を、組み込みマイコンの世界で実現できつつある。もちろん、AI学習など、クラウドでの処理やNVIDIAのGPUの力を借りなければできない処理も依然として残っている。だが、レイテンシの低減やセキュリティ担保など、組み込み対応でのメリットは大きい。
ハイパースケール企業も組み込みシステムに着目
組み込みの世界で、クラウドサービスとの垂直連携システムを実現している例としてAmazon Web Service(以下AWS)の技術やMicrosoftの技術がある。
AWSは、組み込みOSとして古くからマイコン業界で広く採用されてきたFreeRTOSを発展させた「Amazon FreeRTOS」を提供している。このOSをマイコンに搭載することで、AWSが提供するクラウドサービスとの親和性が向上する。さらに、Linux OSベースの「AWS IoT Greengrass」をゲートウェイなどに搭載し、マイコンと連携させることでAWSがクラウド上で提供するIoTサービスとダイレクトに接続でき、セキュリティ対応を強化することが可能だ。
また、エッジがクラウドに接続されていないローカル動作時でも機械学習の推論モデルの実行やクラウド上の関数を実行できる。Amazon FreeRTOSは大手マイコンベンダーを含む認定ハードウェアパートナーが数多くあり、AWS IoT Greengrassとともにソフトウェアは無償で提供されている。
一方、Microsoftはセキュリティを確保したIoTデバイス開発のためのソリューション「Azure Sphere」を提供している。Azure SphereではMicrosoftでセキュリティを担保したOSを提供し、同社が提供するクラウドサービスAzureとの接続親和性を向上させる(Azureのクラウドサービスにロックインされることはない)。現在、MediaTekのMCU「MT3620」がAzure Sphereをサポートしていて、同MCUが搭載された開発キットを購入できる。
Azure Sphereでは、主要な半導体ベンダーとの協力でさまざまな市場に向けた専用チップの設計が可能なエコシステムを構築している。マイコンにはArmの「Cortex-A」を採用しており、Microsoftの統合開発環境「Visual Studio」でアプリケーション開発が可能だ。WindowsではIntelとの連携が強いMicrosoftが、組み込み向けソリューションではArmを採用している点は興味深い。
AWSもMicrosoftも、セキュリティ対応を主眼において取り組んでいるところに、IoTでのセキュリティの重要性が伺える。また、クラウドの世界ではアプリケーションの発達が激しく、機械学習も含めたデータを取り扱う処理も自動化(マネージド)されている。エッジからの垂直連携により、こういったクラウドでのサービスを容易に利用できるメリットも大きい。
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