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貿易摩擦で中国半導体業界の底力が上がる? 座談会【後編】IHSアナリストが読む米中貿易戦争(2/3 ページ)

IHSマークイットジャパンのアナリスト5人が、米中貿易戦争がエレクトロニクス/半導体業界にもたらす影響について話し合う緊急座談会。後編では、メモリとHuaweiをテーマに、中国の半導体業界の今後について予想する。

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中国は自前主義の流れに? 全体の設計力が底上げされる可能性も

EETJ 先ほど李さんがCISのところで話していましたが、中国への部品供給が停止されることで、中国の自前主義が進み、他の半導体チップの分野でも中国メーカー各社の設計力が上がるということは考えられますか?


李根秀氏

李根秀氏 どうなんでしょう。中国人のエンジニアは人数も多いし、相当優秀ですからね。

杉山氏 最近気になるのは、通信系やIoT機器に搭載されているモジュールやチップを分解すると、中国メーカーのマイコンやWi-Fiチップ、Bluetoothチップなどがとても多いことです。それって、結局はローテクなんですよね。先端じゃないものは中国メーカーがかなり提供し始めている。

前納氏 中国は、回路設計はトップクラスなので、いくらでもできるようになっている。でも、半導体の製造工程の微細化は進んでいないので、ハードウェアとして製造することができない。

杉山氏 Armコアがあって、IP(Intellectual Property)があれば「自社で設計できます」という環境には、中国はもうなっていると思う。

 GoogleがHuaweiと取引を停止して、Armも停止すると発表した。そしてEDAツール。これを止められたら、今度は設計までできなくなる。チップ開発ができなくなります。EDAツールベンダーはSynopsysとCadence、この2強で、しかもどちらも米国企業。米国政府から「明日から中国との取引を停止しろ」と言われたら、従わざるを得ないでしょうから。実際、SynopsysがHuaweiとの取引を停止したと報道されています。


杉山和弘氏

前納氏 中国は、ローテクのところがすごく得意だから。そうなると次はアナログなんかは怖いかもしれない。

杉山氏 先ほどのCISのように、中国国内でEDAベンダーが立ち上がる可能性は、なくもない。

前納氏 EDAはノウハウの塊だから、さすがに難しいかな。でもそれ以外で、できる分野から自前主義を進めていこうとなったら、その分野は非常に怖いですよね。

杉山氏 一時的に中国はスローダウンするでしょうけど、そのスローダウンがどこまで続くのか。スローダウンの期間をなるべく長引かせるために米国はどんどん施策を打ってくるでしょうし。

EETJ では、米中ハイテク戦争、貿易戦争は、まだまだ終わりが見えないということですね。

南川明氏 長く続くと思う。ハイテクの半導体を製造できないのなら、ローテクの半導体に注力するとか。そうなると、ディスクリートやアナログ半導体、そしてローエンドのCIS。この辺りをがんがん製造してくる可能性もある。

前納氏 そこは怖いですね。

杉山氏 そうなると、そのローテク半導体のマーケットが壊れますから。最近は中国の電子部品メーカーも出てきてますよね。


大庭光恵氏

大庭光恵氏 Huaweiも、部品の内製化をどんどん進めています。自分たちが動ける間に、中国のサプライチェーンを伸ばしたいという考えはあるようです。

杉山氏 もしかしたら5年後とかに、パワー系の半導体から電子部品、CISまで全て内製して、中国のエレクトロニクス/半導体産業が全体的に底上げされている状況になっているかもしれないですね。そこに対して、日本のメーカーはどうしていくかというのも、今後の課題だと思う。

大庭氏 一番いけないのは、今はハイエンドに自分たち(日本メーカー)の製品が採用されているからと安心して油断することでしょうね。気付かないうちに、中国メーカーが内製でレベルの高いスマホなんかを作っていたりする。

杉山氏 実際に、先端の半導体分野ではそれがもう既に起きていますよね。いつの間にかHiSiliconに抜かれていたり。それがまた起きてしまう可能性もある。

前納氏 今、日本が辛うじて強いところ、アナログとかパワーとか、そういうところが危ないかもしれない。製造装置は、どうなんでしょう。

南川氏 製造装置も、だいぶ中国のローカルメーカーから出てきています。ウエハーも製造し始めてはいますが、ここは品質がまだまだ。あと10年くらいは大丈夫かもしれない。

EETJ 中国外に工場などの拠点を移そうという動きは加速していますか。

前納氏 もともと、人件費の高騰でそういう動きはあったが、今回の米中貿易戦争でそれが加速しましたね。

南川氏 特に台湾系のEMS(電子機器受託生産サービス)メーカーの動きが大きいよね。ホンハイ、Pegatron、Compal Electronics、Quanta Computer。そうそうたる企業が中国から出ていこうとしている。

杉山氏 そうなると全然外貨が稼げず、中国国内の経済を維持するという意味で、かなり厳しくなってきます。そういう意味でも、米国はHuaweiの勢いを止めたかったんでしょう。よく、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)対BATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)という構図で競争が語られますが、BATHのHuawei以外の企業は、中国国内をターゲットにしたものなんですよね。Huaweiは海外(中国外)に出ていって外貨を稼いでいますから。

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