産業用ラズパイ+センサーが製造現場の自動化を加速:ハーティング(1/3 ページ)
産業用途で利用できる「Raspberry Pi(ラズパイ)」を手掛けるハーティング。代表取締役の能方研爾(のうがた・けんじ)氏に、産業用ラズパイの市場動向や同社の戦略などについて聞いた。
産業用途での活用が進む「Raspberry Pi(ラズパイ)」だが、産業向けにラズパイと周辺機器などを統合した製品を手掛けている企業は、日本ではまだそれほど多くない。産業用コネクターやスイッチ、センサー、産業用の小型PCなどを手掛けるハーティングは、そうした数少ないメーカーの1社だ。同社代表取締役の能方研爾(のうがた・けんじ)氏に、産業用ラズパイの市場動向や同社の戦略などについて聞いた。
製造現場での認知度が上昇
EE Times Japan(以下、EETJ) ラズパイの用途は、ホビーや教育よりも産業用を上回っています。ハーティングは、産業用ラズパイを以前から手掛けていますが、これまで同市場を見てきて感じた変化やトレンドをお聞かせください。
能方研爾氏 数年前までは、産業分野のユーザーの間ではラズパイの認知度は低かったが、ここ2〜3年くらいで、「現場に使えないか」「FA(Factroy Automation)に使えないか」といったニーズや興味が出てくるようになった。そういった興味は、制御機器のメーカーというよりはエンドユーザーが持っている。
そういったエンドユーザーがどんなところで産業用ラズパイを使いたいかといえば、基本的にはラズパイはPCなので、アイデア次第ではあるが、以前の産業用PCと同じようにエッジコンピューティングやゲートウェイなど一般的なコンピュータとして使うところからスタートしている。現在も、当社の顧客の半数くらいは、ゲートウェイとして使っているのではないか。データを保存しておいたり、上位システムとの間で情報をやりとりしたりといった用途だ。
ラズパイがあれば、センサーを製造現場に取り入れやすい
EETJ ハーティングとしては、産業用ラズパイのどういった用途に注力していますか。
能方氏 当社として開拓しているのがセンシング用途だ。具体的には、半導体センサーやカメラからの情報を受け取るレシーバーとしての用途である。LiDARや距離センサー、においセンサーなども含め、一般的な半導体センサーのインタフェースはコンピュータに接続することを想定して搭載されているものが多く、PLCではそもそも使えない。われわれが提供しているような産業用ラズパイであれば、こうしたセンサーからの情報の受け取りに適している。
FAセンサーの分野では、近接センサーなどごく一部しかFAに適用できるようになっていないので、それ以外の一般的なセンサーを使うために産業用ラズパイを導入する、というトレンドが、個人的には面白いと思う。あるいはオープンソースのソフトウェアを書き込んで動かすといったこともPLCではできないので、そういったところをターゲットにしている。
EETJ 産業用ラズパイを使うことで、半導体センサーも製造現場に取り入れやすくなるということですね。
能方氏 その通りだ。LiDARのように広範囲で測距できるFAセンサーは、まだないので、半導体センサーを使えるようになれば、製造現場の可能性が広がることになる。例えば、今のFAでは、搬送装置の移動を止めるために測距したい場合、近接センサーくらいしか使えない。つまり、近距離しか測れないということだ。そこで製造ラインの方を何とか工夫し、ちょっとした突起を作ったり、光を遮ることができるような作りにしたりして、近接センサーを使えるような環境作りをしてきた。
だが、ここで例えばカメラが使えるようになれば、搬送装置が止まる位置を画像から判断するなど、“人間が目で見る時に近い環境”でFAを構築できるようになる。
AGVを例に取ると分かりやすいと思うが、かつては基板の高度なはんだ付けや組み立てを装置で行い、それを次の工程に運ぶのは人間がやっていた。そこを自動化する手段がなかったからだ。だがAGVが登場し、今は安価なロボットで搬送するようなところもある。つまり、“人間の足”を自動化したわけだ。
産業用ラズパイとセンサーを使えば、今度は“人間の目”を自動化できるようになる。ここは今の製造現場では自動化しきれていない部分なので、そうした“隙間”を埋めるような自動化が進むのではないか。
EETJ そうした動きは、日本よりも欧州などの方が進んでいるのでしょうか。
能方氏 そうは思わない。欧州は確かにトレンドは進んでいるが、実現という意味ではどの国もまちまちだ。実は欧州の顧客というのは、日本の顧客よりも保守的。日本のエンドユーザーの方が積極的だと感じる。
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