「対韓輸出規制」、電子機器メーカーの怒りの矛先は日本に向く?:湯之上隆のナノフォーカス(15)(2/4 ページ)
フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3材料について、韓国への輸出規制を発動した日本政府。だがこの措置によって、日本政府は「墓穴を掘った」としか思えない。場合によっては、世界の電子機器メーカーやクラウドメーカーの怒りの矛先が日本に向く可能性もあるのだ。
フッ化水素の影響
筆者は当初、日本政府による対韓輸出規制の3材料の内、EUVレジストの影響が最も大きいと考えていた。というのは、EUVレジストは、信越化学工業、JSR、富士フイルム、東京応化工業などの日本企業しか供給できないからだ。
しかし、半導体製造工程を分析しているうちに、フッ化水素の影響がEUVレジストよりもはるかに大きいと思うようになった。その理由を述べる前に、フッ化水素が半導体製造のどの工程に、どのように使われるかを説明する。
フッ化水素(Hydrogen Fluoride、HF)は、通称“フッ酸”と呼ばれており、次のようなプロセスに使用される。なお、以下のバッチ式および枚葉式は、Samsungの3次元NANDフラッシュの製造に使われていると推定される洗浄装置である。
1)各種のメタル、ポリSi、絶縁膜などを成膜する前の洗浄工程
フッ酸は、Deionized water(DI water)と呼ばれる極めて純度の高い純水と、ある混合比で希釈され、主として一度に数百枚を処理するバッチ式洗浄装置で使用される
2)CMP後の洗浄工程
フッ酸を水酸化アンモニウム(NH4OH、いわゆるアンモニア水)などと混合し、主としてバッチ式装置で洗浄する
3)ダブルパターニングにおける犠牲膜のウエットエッチング工程
フッ酸の原液を使用し、主としてバッチ式ウエットエッチング装置が使われる
4)ウエハーの裏面洗浄工程
例えば、ウエハー裏面に付着したSiNを除去するために、フッ酸を水酸化アンモニウムなどと混合して、ウエハー1枚ごとにスプレー洗浄する。この方式を、バッチ式と対比して枚葉式という
半導体製造工程は、500〜1000工程ほどもあるが、上記の洗浄やウエットエッチング工程は、全工程の10%以上を占める。
ちょっと横道にそれるが、フッ酸を使わない洗浄も含めると、全ての洗浄工程は、全工程数の30〜40%を占める。そして、微細化が進むほど、洗浄工程数は増える傾向にある。要するに微細なパーティクルを除去するために、ウエハーを洗って洗って洗いまくるわけだ。
そして、各半導体メーカーの各工場において、全ての工程ごとに洗浄液の混合比などが厳密に決められており、それが最終的な歩留りに直結するのである。
フッ化水素の在庫が無くなったらどうなる?
このように、フッ酸は、半導体製造の10%以上の工程に使われている薬液である。その半導体は、ロジック、DRAM、NANDフラッシュなど、種類を問わない。先端かそうでないかも関係ない。つまり、フッ酸は、全ての種類の、あらゆる世代の半導体製造に必要不可欠な薬液であると言える。ついでに言うと、有機ELパネルの製造にも、間違いなく使用されているはずだ。
このように、無くてはならない薬液のフッ酸の在庫が無くなったらどうなるのか? ロジック半導体も、DRAMも、NANDフラッシュも(恐らく有機ELも)、あらゆる半導体の製造が頓挫することになる。“フッ酸の影響はEUVレジストよりはるかに大きい”と言った意味がお分かりいただけただろうか?
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