電子産業が「医療・生命科学」に期待するもの:福田昭のデバイス通信(195) 2019年度版実装技術ロードマップ(6)(2/3 ページ)
今回は、「メディカル・ライフサイエンス(医療・生命科学)」から前半部分の概要を報告する。同分野でのエレクトロニクス技術に対するニーズや、エレクトロニクス技術が貢献できそうな事柄には、どんなものがあるのだろうか。
解析技術の超高速化がDNA解析の普及に大きく寄与
ここからは、「2.3.1 エレクトロニクス業界から見たメディカル・ライフサイエンス領域」の概要を完成報告会のスライドから、解説していこう。
まずは用語の説明から入る。ヒトの細胞の核には23対(46本)の染色体が含まれている。この染色体の中にDNA(デオキシリボ核酸:DeoxyriboNucleic Acid)があり、DNAに含まれる遺伝情報を「ゲノム情報」あるいは「ゲノム」と呼ぶ。遺伝情報は、4種類の異なる塩基の配列(順番)である。
ゲノム情報である塩基配列を解析することを、「DNAシーケンシング」と呼ぶ。このDNAシーケンシングはDNAの断片から塩基配列を決定しており、多大な時間とコストを要することが問題だった。しかし2000年代半ばに、数多くのDNA断片の塩基配列を同時並行で決定する「次世代シーケンサ(NGS:Next Generation Sequencer)」が登場し、なおかつNGSの性能が飛躍的に向上していった。
この結果、DNAシーケンシング、すなわち塩基配列の解析にかかるコストが急激に低下し、ゲノム情報の解析技術が急速に普及していった。例えばヒトの「すべてのゲノム情報」を解析するコストはNGSが登場し始めた2007年には約1000万米ドルかかっていたのが、2015年にはわずか1000米ドル、すなわち8年で1万分の1と、とてつもない勢いで低下した(ロードマップ本文83ページ、米国の国立衛生研究所が2016年に発表したデータ)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.