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日韓経済戦争の泥沼化、短期間でフッ化水素は代替できない湯之上隆のナノフォーカス(16)(1/4 ページ)

日本政府による対韓輸出管理見直しの対象となっている3つの半導体材料。このうち、最も影響が大きいと思われるフッ化水素は、短期間では他国製に切り替えることが難しい。ただし、いったん切り替えに成功すれば、二度と日本製に戻ることはないだろう。

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日韓が経済戦争に突入

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 2019年6月末に開催されたG20直後の7月1日、日本政府は、韓国に対する輸出管理運用の見直しを発表し、7月4日から半導体の3材料(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)について包括輸出許可から個別輸出許可へと切り替えることとした。さらに、日本政府は8月2日に、韓国を“ホワイト国”から除外することを閣議決定している。

 これに対して、韓国政府は日本をWTO(世界貿易機関)へ提訴する準備を始めるとともに、韓国も日本を”ホワイト国“から除外し、半導体メモリを輸出規制対象にすると韓国メディアは報じている。もはや、日韓関係は、後戻りできない経済戦争に突入した。今後、日韓両国がどのような製品を輸出規制の対象とするか予断を許さない状況となっている。

 本稿では、まず、日本政府が既に輸出管理運用の見直しを発動した3材料について、韓国企業の在庫が無くなったら、どのような影響が出るかを総括する。その上で、特に影響が大きいフッ化水素について、短期間では、日本製から中国、台湾、ロシア製などに切り替えることが困難であることを論じる。

 結論を先取りすれば、フッ化水素の代替には、ベストケースで1年、常識的に考えれば2〜3年かかると推測している。しかし、いったん、日本製からの切り替えに成功したら、二度と日本製に戻ることはないだろう。

輸出管理の見直しが発動された3材料の影響

 Samsung Electronics(以下、Samsung)やSK hynixには、半導体材料の在庫が1カ月程度しかないと聞いている。従って、経産省における輸出審査に3カ月かかった場合*)、最大2カ月間は半導体が製造できなくなる。その影響を表1にまとめた。


表1 日本政府による対韓輸出管理見直しの影響(クリックで拡大)

*)編集注)本原稿執筆後の2019年8月8日、経済産業省は、半導体材料の3品目のうち、審査の結果、レジストの輸出を許可したことを明らかにしている。

 フッ化ポリイミドの在庫が無くなれば、LGエレクトロニクスの有機ELテレビが生産できなくなる。また、EUV(極端紫外線)レジストの在庫が切れれば、Samsungの7nmプロセスの先端ロジック半導体が製造できないため、Samsungの最新型スマートフォン「GALAXY」の生産が滞る。現在量産中の先端DRAMへの影響はほとんど無いが、次々世代のDRAM開発が頓挫する。

 そして、最も影響が大きい材料がフッ化水素である。主として半導体の洗浄に使われる薬液のフッ化水素の在庫が無くなったら、ロジック半導体、DRAMやNAND型フラッシュメモリ(以下、NAND)などの半導体メモリ、有機ELパネルの全ての製造が滞る。

 特に、SamsungとSK hynix合計で世界シェア72.6%のDRAM、同シェア39.4%のNANDの製造が1〜2カ月停止しただけで世界の電子機器や通信機器業界は大混乱に陥るだろう。

 上記の中でもDRAMが製造できなくなった時の影響は甚大で、仮に2カ月間出荷が止まったとすると、2億3000万台のスマートフォン(14億台超)、4300万台のPC(2億6000万台)、2500万台のタブレット、2785万台のSSD(1億6715万台)、217万台のサーバ(1300万台)および各種デジタル家電の生産に支障を来たす(カッコ内は2018年の総出荷台数)。

 ここで、SSDについて一言述べておくと、最近のSSDには、NAND、そのコントローラー、そしてDRAMが部品として使われている。従って、DRAMが無ければSSDを作ることができず、するとPCもサーバも生産できないことになる。

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