iPhone 11 Proを分解、パッと見では分からない劇的変化が潜んでいた:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(39)(3/3 ページ)
2019年9月20日に発売されたAppleの新型スマートフォン「iPhone 11 Pro」の内部の様子を報告する。一見すると、従来モデルを踏襲した内部設計のようだったが、詳しく見ていくと大きな変化が潜んでいた――。
年々高まるAppleの垂直統合力
常に新しいチップを作り、同時に新製品に活用するという点で、Appleの垂直統合力は年々高まっている。図5は基板、電池などを取り除いたiPhone 11 Proの様子である。2つの部品だけが本体筐体に埋め込まれている。1つは非接触充電用のコイルである。本システムは従来から使われていたものとほぼ同じ構造となっている。右側はU1チップ用のアンテナである。3カ所に分離したアンテナがカメラ部を囲むように配置されており、コンピュータ基板につながっている。筐体の枠にはLTEなどのアンテナが張り巡らされているため、U1のアンテナはこの場所になったのだろう。ボディーそのものがアンテナを埋め込む場所として活用されているわけだ。
図6は、前年モデルのiPhone XSとiPhone 11 Proのディスプレイを取り外した状態とコンピュータ基板の比較である。先に述べたように内部の基本配置は変わっていない。しかしカメラを1個追加するために、各所は少しずつ変更され、カメラを追加できる領域を生み出している。iPhone XSではコンピュータ基板は高さがおおよそ67mmあり、カメラやディスプレイ、電池、Lightning端子などと接続される基板の端子はほぼ基板の左側に集中していた。そのため基板は縦長になり、67mmとなっている。しかしiPhone 11 Proではコンピュータ基板の端子を基板の上方向に集中させて基板の高さを約17mmも短い50mmに収めている。こうした大きな変更によってカメラ1個を追加できるエリアを生み出したわけだ。さらにコンピュータ基板からLightning端子近くに移動したチップもある。
電池の体積も実際には微妙に変わっている。電池も前年モデルの使い回しではなく、新たな部品サイズとの組み合せの中で体積が最大化されるように新規に開発されたものであった。Face ID部もスピーカーも使回しではなく、全てが新たにiPhone 11 Pro(および11)向けに開発されたものだ。
ただしチップでは若干同じものが使われているケースもある。センサーチップやオーディオパワーアンプなど。しかし多くの部品やチップは新規に開発されたもので構成されている。
iPhone 11 Proは図6のように、パッと見は前年モデル、あるいは2年前のiPhone Xと基本配置や構造は同じである。しかし細部はすべてがサイズも位置も経路も変わっている。
進化を続けるスマートフォン
当然ながらAppleだけでなく、SamsungもHuaweiも同様だ。内部の隅々まで常に改善、改良、変更を繰り返しして進化を続けている。5GやAIのような新たなデバイス群が追加され、機能として必須になり、同時にマルチカメラが主流になっていく中で、決して劇的ではないにしても、今後も内部はどんどん変化していくものと思われる。低成長とは言え、スマートフォンの観察は今後も重点的に行っていく!!
中国スマートフォンにも共通した巨大な変化が始まっている。それは別の機会に報告したい。
筆者Profile
清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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