見せろ! ラズパイ 〜実家の親を数値で「見える化」せよ:江端さんのDIY奮闘記 介護地獄に安らぎを与える“自力救済的IT”の作り方(4)(6/6 ページ)
介護にまつわる話題において、よく聞かれるのが「誰にも迷惑をかけたくない」という言葉です。この“迷惑”という観念に対する対処法を考える時に、外せないのが「尊厳死」と「安楽死」です。被介護人が、全く意思疎通ができない“ブラックボックス”のような状態になった時、あなたならどうするでしょうか。そして、自分がその立場ならばどうされたいでしょうか。後半では「ラズパイ」を使い、実家の親の日常を数値とグラフで「見える化する」方法をご紹介します。
後輩の辛口レビュー
後輩:「江端さん。このシリーズは、『介護IT』に関する連載ですよね」
江端:「そうだけど」
後輩:「前半の記述がうんざりするほど長い。しかも完全に『介護IT』とは無関係。加えて前半と後半の内容に関連性もない。よくEE Times Japan編集部が怒り出しませんね」
江端:「……いや、担当のMさん、激怒しているかもしれない。ただ、Mさんは、『江端をコントロールすることもできない』こともよく知っている人だし……*)」
*)編集注:激怒はしていませんが、まあ長いとは思っております(笑)。
後輩:「江端さんは、どこで、何をやっていても、誰かに迷惑をかけていますよね」
江端:「そうだなぁ、それでも『いつもすまないねえ』とは思わないけどね。『諦めて下さい』とは思うけど」
後輩:「それにしても、相変わらず、傍若無人にタブーに突っ込んできますね。今回は「死」ですか。それも『安楽死』に『尊厳死』に『無痛死』」
江端:「確かに、タブーのオンパレードと言ってもいいかもしれない。今度こそ炎上するかもしれないなあ」
後輩:「駄目ですね。残念ですが炎上はしませんよ。なぜなら、これ、皆が普段考えていることを、江端さんが『言語化』しただけですから」
江端:「そうかな?」
後輩:「それに、炎上させているその辺のバカとは、江端さんは、そもそも気合が違うでしょう。江端さんは、自分の血塗られた手を私たちの目の前に差し出して、私達に『覚悟はできているか?』と問うているんでしょう?」
江端:「そういうつもりはないが、正直、この問題は、本当に難しい。もしかしたら、このコラムが、高齢者や障害者を無差別に殺害して良いという『教本』になってしまうんじゃないかと思うと、怖くて仕方がないよ」
後輩:「それは論理の飛躍が過ぎますよ。江端さんは、司法判断や、現時点での社会通念、そして『ブラックボックスの中の苦痛』という、新しい概念を登場させて、総合的に論を展開していると思いますよ」
江端:「……」
後輩:「よほどのおばかさんでもない限り……というか、そんなおばかさんは、江端さんのコラムを読み説く知力はないし、そもそも、この"悪質なまでの長文コラム"の最後のページまでだとり着く体力もないでしょう」
江端:「さらりと、私のコラムをディスっているな?」
後輩:「それはさておき。江端さんのこの考え方は、『現時点での江端さんの考え方』ですよね」
江端:「そりゃ、もちろん」
後輩:「江端さんが不可避な死に直面した時や、もしかしたら、あと10年、20年後、例えば、江端さんが沢山の孫に囲まれた時にも、こういう考え方を続けていられるかは、分かりませんよね」
江端:「そう思う。これまでだってそうだったし……そうだなぁ、例えば、ティーンエイジャの頃の『革命幻想』の話ならば……」
後輩:「あ、そういう『年寄りの思い出話』はどうでもいいです。つまり、個人の考え方は、常に変動しつづけている、ということですよ」
江端:「……まあ、そうだが」
後輩:「江端さんが、今回の『死に関する見解』を、将来、取り消したくなったら、どうします? いったん、ネットで流出してしまった内容は、消せませんよ」
江端:「私は、それでいい、と思っている。私は、『人間とは時間軸に対して分断された赤の他人の列』と思っているから」
後輩:「ん? どういうことですか?」
江端:「"昨日の自分"、"今日の自分"、"明日の自分"は、全部、別人である、ということ」
後輩:「それ、かなり乱暴な論ですよ。それなら、過去の言動は一切無視して生きる、ということになります。迷惑極まりないです」
江端:「もちろん、"昨日の自分"を否定するなら、"今日の自分"は、"昨日の自分"をきちんと総括して、自己批判しなければならないよ。ちゃんと、『私はXXXXという理由から、自分が間違っていたことを認めます』って言わなければならないと思う」
後輩:「……」
江端:「だからといって、"今日の自分"が、"昨日の自分"を否定して、なかったことにしてしまうのは、よくないと思う。"昨日の自分"は、"昨日の自分"が、一生懸命考えて生きてきた自分なのだから、もっと大切にしてあげるべきだ」
後輩:「江端さんの言っていることをまとめると『誰もが"黒歴史"を肯定すべきだ』ということになりますが」
江端:「その通り。自分の"黒歴史"は肯定すべきだ。"黒歴史"を、恥ずかしいから『なかったこと』にして、他人や自分の中から消し去ってしまう権利は、自分自身にすらないと思う。皆は、もっと自分を愛してあげるべきだ」
後輩:「……」
江端:「例えば、中二病のノートの内容 『世界の支配構造はリセットされ、混沌の未来が待つであろう。これこそが、シュタインズ・ゲートの選択ッ!』というセリフは、ちゃんとノートに残して、スキャンして、自分のブログにでアップして上げてもいいと思う、"過去の自分"のために」
後輩:「いやはや、参りました。江端さんの『愛の永久機関』は伊達(だて)じゃありませんね。江端さんは、愛に生きる人ですよ」
江端:「よせよ、照れるじゃ……」
後輩:「怖いくらいの"自己愛"の人です」
Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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