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ある医師がエンジニアに寄せた“コロナにまつわる現場の本音”世界を「数字」で回してみよう(62) 番外編(3/10 ページ)

マスクは、「他人へのウイルス拡散防止」にはなっても、「他人から自分へのウイルス拡散防止」にはならない。こんな非対称的な論理が、なぜ成立するのだろうか――。今回のコラムは、私のこの疑問に対して、現役医師で、私の過去のコラムでも何度もお世話になっている「轢断のシバタ」さんが下さった、1万字以上にも及ぶメールを紹介するものです。

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マスク着用の効果は「分かりません」

 さてここで、ちょっと論を離れまして、「マスク」について医師としての個人的な意見を言わせてください。

 私は花粉症の人間なのですが、その私の率直な感想として、マスクだけで花粉症の症状を押さえることは不可能です。症状を抑えるためには結局抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬の併用が必須です。

 この事実から、いわゆる一般のマスクで飛沫をどれだけ受け止められるかについて、考察してみます。

 防塵(ぼうじん)マスク(いわゆる産業用マスク)と違って、サージカルマスク(いわゆる医療用マスク)は「患者の創部に飛沫を飛ばさない」ことを主な目的にしています。スキマだらけです(メガネが曇るのを何とかして欲しいものです)。

 ヨーロッパではサージカルマスクに感染予防効果を誰も期待していないので、薬局にサージカルマスク自体が売っていません。

 かわりに、防塵マスクがホームセンターに売っていたりします。ただ、このマスクは、吸気(吸う息)は完全にろ過するものの、呼気(吐く息)はフィルターを通さずに弁を通じて直接外に排出します。

 あくまでも、装着者の安全のためのマスクです。なので、飛沫の飛散防止という意味では、効果がない、とまでは言わないまでも、60%〜70%程度の効果しかないという印象です。

つまり、

  • 防塵マスクは、吸気には効果がある可能性がある(ウイルスは小さいのでマスクの性能と取り扱いにより効果はまちまち)が、呼気には効果がない
  • サージカルマスクは、吸気には効果が期待できず(感染予防にならない)、呼気には効果(「患者の創部に飛沫を飛ばさない」)がある

ということです。

 感染の専門家でもない医師ではない人(江端さん他、多くの人)が、ドラッグストアで購入するマスクには、そもそも、吸気や呼気を分けるという考えすらありません。

(マスクの争奪戦が繰り広げられている真っ最中に、こんなことを言うのは本当に気が引けるのですが)、いまだかつて飛沫感染に対して市販のマスクが有効だと証明された試しがありません

 唯一、満員電車内において至近距離に飛沫を量産している人が居た場合には、飛沫を直接吸い込む量を軽減する効果はあると思います。しかし、その後にマスクを破棄し、手洗いをし、飛沫を浴びたであろう髪、顔、衣服、カバンなどの消毒を行わないと、マスクの効果はほぼ打ち消されることが過去の検討から予想されます。

 しかし、何年か後に「COVID-19については、市販マスクは恐しく有効であった」という研究結果が出る可能性も否定はできません。とにかく、"現時点では"COVID-19は確定的なことは安易に言えない"が事実です。

 一般市民にとってのマスクには、「衛生意識を高めるための“必勝だるま的”アイテム」という側面が間違いなくあると思います。なぜなら、前述のように「マスクをしている集団では、風邪・インフルエンザの罹患率が低かった」からです。しかし、マスクは、着用するだけでは意味が無いのです。

 では、次にマスクの機能(働き)についての、一般的なお話をします。

 マスクが受け止めた飛沫は、

(a)呼吸や風によって外に飛ばされる
(b)ずっと付着したままになる
(c)飛沫の蒸発とともにウイルスの飛沫核がマスクのろ過能力より小さくなり、呼吸によって口腔内部/肺に吸引される
(d)マスクを触ったときに手指に移動する
(e)時間経過と共にウイルスが不活性化する

の上記5パターンのうちのどれかで終了するはずです。

 なので、マスクは(c)、(d)の前に捨てるか、もしくは洗うか消毒して、同時に手洗いを行う必要があります。

 先ほどの論(「現時点ではマスクの効果は分からん」)では、私はネガティブでしたが、「感染者にマスクを装着させることは、周囲への感染を抑える効果がある」と証明されています。

 特にインフルエンザで文献やガイドラインが多く、ぱっと調べただけでも論文が存在します*)。WHOはそれを引用して2009年のインフルエンザ騒動のときにマスク着用を推奨しています。

*)efferson T, Foxlee R, Del Mar C et al. Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses: systematic review. BMJ 2008; 336;77-80.

 EUの感染予防対策機関であるECDC(European Centre for Disease Prevention and Control)でも、エビデンス付きでインフルエンザ患者のマスク着用が感染伝播阻止に有効と記載しています(参考)。アメリカのCDCでも、マスク着用を推奨しています。

 なお、武漢では、医療関係者には防護服やマスクが優先的に支給されていたようですが、実際問題として相当数の医療関係者がCOVID-19に感染しています。これは、前述のサージカルマスクやN95マスクでさえ「完全なウイルス感染阻止効果を期待することはできない」を支持する結果になっているとも言えます。

 もっとも、これを「マスクだけの原因」とするのは、ミスリーディングであることは分かっています。COVID-19と闘っている最前線の現場の人が感染しやすくなるのは、確率論からいって当然のことです。

 ですので、「マスクや防護服程度で感染率をゼロにすることはできない」という戒めとするのが、正しい考え方だと思います。

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