コロナ禍の先を見据えよ ――緊急事態宣言下の今、考えるべきこと:大山聡の業界スコープ(28)(1/2 ページ)
政府は、緊急事態宣言を発令した。この緊急事態の今、「われわれは何を考えるべきか」「新型コロナウイルスの影響が収まり始めたらどうすべきなのか」について私見を述べさせてもらうことにする。
2020年4月7日、安倍首相は「緊急事態宣言」を発令した。その内容や発令のタイミングについてはさまざまな議論がある。筆者も政府に対して申し上げたいことは山ほどあるが、政治的な議論は別の記事に任せることにしたい。ここでは、「この時期にわれわれは何を考えるべきか」「新型コロナウイルスの影響が収まり始めたらどうすべきなのか」について私見を述べさせてもらうことにする。
昨今の「新型コロナの経済への影響」に関するメディア報道を見ると、「リーマン以上のインパクト」という表現がやたらと目に付く。確かに世界中が同じ問題に直面しているという点では、リーマンブラザーズ証券が2008年9月に経営破綻したことによる悪影響、いわゆる「リーマンショック」と比較したくなる状況ではある。しかしリーマンショックは金融システムの負の連鎖が要因で、世界保健機関(WHO)のような組織が何かを宣言したわけではなく、各国の大統領や首相が外出禁止令や自粛要請を出したわけでもない。“コロナ不況”とも呼ばれる昨今の状況とリーマンショックを比較する行為に違和感がある。ただ、日本(というよりも日本企業、日本市場)がリーマンショックの時と同じ轍(てつ)を決して踏まないようにと願っていることがある。それは「回復局面で立ち後れてほしくない」ということだ。
リーマンショック後の回復局面で、立ち後れた日本
図1は、2008年から2009年にかけての世界半導体市場の動向(対前年同月比)を地域別にグラフ化したものである。2008年前半は地域別に温度差があるものの、何とかプラス成長を維持しながら推移していた。が、2008年7月に米州市場が落ち込み始めた。リーマンショックは「米国発」なので、米州市場に最初に変化が現れたのは合点がいく。リーマンブラザーズ証券が破綻したのは同年9月15日。翌10月にはすべての地域がマイナス成長に落ち込んでいる。そして2008年12月または2009年1月に市況は底を打ち、回復速度にやはり温度差はあるものの、各地域とも回復局面を迎えている。しかし日本市場はちょっと違う。市況が底を打ったのは2009年3月と遅く、しかも各地域が回復基調に入った後も前年同月比マイナス20%前後で低迷している。欧州市場もしばらく低迷していたが、日本市場よりも2カ月先に前年同月比プラス成長へと転じた。このグラフからは、日本市場は底打ちも回復も、グローバル市場において立ち後れていた、という事実が読み取れるのである。
もっとも2008年後半から為替が円高になり、日本市場回復には逆風が吹いていた、という要因もある。だが、このグラフは米ドルベースでの比較である。言い換えれば、円ベースでグラフ化すると日本市場の低迷振りはもっとひどかった、ということになるのだ。
当時、富士通の半導体子会社に在籍していた筆者は、日系顧客と海外顧客の動向に大きな違いを感じざるを得なかった。特に2009年後半にさしかかると、「弱気の日系顧客、強気の海外顧客」という色合いが浮き彫りになった。親会社の富士通も「弱気」の部類に入っており、例外ではなかったことをよく覚えている。マーケティング部門に籍を置いていた筆者は「世界は明らかに回復局面に入っているのに、日系企業は本当にこのままで良いのか。これでは回復の波に乗れないのではないか」などと危惧したものだ。
奇しくも2009年は7月に衆議院が解散し、民主党政権が誕生した年でもある。政局の混乱や円高の長期化が日本経済にマイナスに作用した面はあるかもしれないが、大手日系企業の各社が弱気になっていたのはもっと別の理由があったはずだ。一概にすべての日系企業に当てはまるかどうかは分からないが、「景気が好転した後の戦略」が明確になっていなかった企業が多かったことと強い因果関係があるはずだと、筆者は確信している。
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