Appleの妙技が光る「iPhone SE」、絶妙な新旧組み合わせ:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(44)(3/4 ページ)
Appleが2020年4月24日に発売した第2世代「iPhone SE」を分解。そこでは、新旧のiPhoneに使われている技術をうまく組み合わせる、Appleの妙技が光っていた。
名実ともに「8コア」となったGPU
Appleは2020年も続々と新製品を市場投入し続けている。図5は2020年3月25日に発売になった「iPad Pro」の外観と基板である。先のiPhone SEにしてもiPad Proにしても旧製品と呼称は同じ(正式な型名は別物)だが、中身は大きく入れ替わっている。
iPad Proでは新たにLiDARが搭載され、カメラもシングルからデュアルになるなど外観でも別物になった。内部は2018年のiPad Proが「A12X」プロセッサであったのに対して、「A12Z」とチップ名称を変えたものになっている。
図5では製品の外観と基板の写真の他、プロセッサおよび、プロセッサを取り出し、チップ上の配線層を剥離して回路を露出させ、GPU部を示した。AppleはA12Zを8コアの構成であると仕様公開しているが、図5のように実チップも8コア(同じユニット:演算器形状)になっている。従来のA12Xは7コアなので、1コア増えた分、性能も約1.14倍に向上する。
弊社は2018年、当時のiPad Proを分解しA12Xのチップ解析を行った(テカナリエレポート250号2018年11月23日発行)。その際、A12XコアはApple公表の仕様では7コアだったが、実シリコンは8コアであることを配線層剥離の解析で明確にしている。そして、フィジカル8コアを「7コア」として発売した理由を、歩留まりによるものだと推測した。テカナリエレポートのユーザーはぜひ250号を再読いただきたい。
表3に、A12XとA12Zのまとめを掲載した。顕微鏡でしか見ることができないがシリコン上には開発コードなどの文字がメタル層で書き込まれている。A12XとA12Zはシリコン上のネーミングからサイズ、形状、全てがまったく同じものであった。つまり、結局は同一シリコンである!
半導体は年々歩留まりが改善されるケースが多い。新しいプロセス技術は立ち上げ当初、若干歩留まりが悪い場合もある。しかしランニング製造しながら改善、改良を進め、やがて歩留まりが向上していく。同時にベストケースとワーストケースの幅、製造ウインドも小さくなりバラつきも減っていく。
A12Xは、7nmプロセスの初期に、ほぼ最初の7nm製品としてリリースされたものである。あれから数年を経て、7nmプロセスは今や多くの主力製品のメインチップに適用されており、立ち上げ当時よりも間違いなく歩留まりも欠陥密度も改善されているものと思われる(実際の数字もある程度入手しているが割愛)。
チップは製造ウインドが小さくなれば周波数を上げることができる。また欠陥密度が改善されれば完全動作チップの取得数も増える。A12XのようにGPU部がチップの3分の1の面積を占めるものではGPU部が欠陥に当たる確率は大きい(計算値はあるが省略)。
恐らく、2018年当時、7コア動作チップはそこそこ用意できた(取得できた)が、8コアは少量だったので、公称値ではGPUを7コアとしてリリースしたのではないか。その後、プロセス技術の成熟によって8コア動作チップが多数取得できるようになったので、A12Zとリネームして再利用するに至ったのではないだろうか。
Appleは2020年も多くの製品をリリースする。過去製品から流用するもの、新たに開発するもの、あるいは歩留まりの改善などによってリネーム/再利用するものなど、過去、現在などを最大限に組み合わせて新たな価値を生み出している。
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