パンデミックで通信市場のトレンドにも変化:5G展開の加速も(2/2 ページ)
エリクソン・ジャパンは2020年7月13日にオンライン記者説明会を開催し、世界の移動通信市場に関する調査報告書「エリクソンモビリティレポート」の最新版(Ericssonが同年6月16日に発表)について概要を紹介した。
産業用ネットワークのトレンド
ローカル5Gなど、産業用ネットワークにおける5Gの動向について、藤岡氏は「携帯電話業界だけでなく、さまざまな業界で5Gをどう活用するかについて検討が始まっている」と説明する。「例えば、製造業やプロセス関連産業では『5G-ACIA(Alliance for Connected Industries and Automation)』、自動車産業では『5GAA(5G Automotive Association)』やAECC『Automotive Edge Computing Consortium)』といった団体が中心となって5G活用を検討している。最近では、ドローン飛行の規則と活用についても欧米の団体を中心に検討が進んでいる」(同氏)
産業用5Gの周波数の割り当ても、各国で進められている。日本では4.6G〜4.8GHz帯および28.2G〜29.1GHz帯の割り当てが済んでおり、2019年12月には総務省が28.2G〜28.3GHzの100MHz幅について、ローカル5Gの申請受付を開始した。日本以外では、英国、ドイツ、フランスで一部割り当て済みで、中国、台湾、スウェーデン、マレーシア、オーストラリアなどでは割り当てる周波数を検討中だ。米国には3.5GHz帯の電波を共有し、無線通信サービス(CBRS:Citizens Broadband Radio Service)を行う法制度があり、そこが産業用に活用されるとみられている。
藤岡氏は、「産業用5Gにおける通信事業者の役割としては、産業用専用帯域と公衆通信用帯域を組み合わせて利用することをサポートしたり、プライベートネットワークと公衆網の間のローミングをサポートしたりすることが求められている」と説明した。
今回のレポートでは、2つの事例を掲載している。1つ目は、ドイツテレコムが照明機器メーカーのOSRAMにプライベートLTEネットワークを提供するというもの。LTEの無線リソースをプライベート用と公衆用にシェアしている。OSRAMはそのプライベートLTEネットワークを利用し、工場の自動化の実証実験などを行っている。
2つ目の事例は、現在構築中の、パリ空港内専用共有ネットワークだ。シャルル・ド・ゴール空港、オルリー空港、チャーター便やプライベート便が発着するル・ブルジェ空港をそれぞれカバーするTD-LTEネットワーク(2.6GHz帯利用)で、空港運営会社の子会社Hub OneとAir France-KLMが共有できる。12万人のスタッフが使用するモバイル機器用通信の他、荷物の追跡、LTEブロードキャスト、AR(拡張現実)動画共有などで利用する。同ネットワークは、将来的には5Gに拡張される予定だ。
なお、エリクソン・ジャパンでは2020年2月にLuca Orsini氏が新社長に就任した。同氏は今回の記者説明会の冒頭で、「COVID-19によるパンデミック下では、通信インフラの重要性が今まで以上に増している。また、5Gはモバイルだけでなく、社会的な変革や、産業の変革においても、より大きな役割を担うだろう」と述べた。
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