自動車業界を悩ませる、ADASベンチマークの不在:性能にばらつき(1/2 ページ)
「どれくらい安全なら、“十分な安全性がある”といえるのだろうか」。この疑問は、完全な自動運転車をめぐる全ての議論の中に潜んでいて、頭から離れることがない。多くの自動車メーカーは、自動運転車開発計画を保留する中で、この質問に対する回答も後回しにしているようだ。
ADAS性能のばらつき
「どれくらい安全なら、“十分な安全性がある”といえるのだろうか」。この疑問は、完全な自動運転車をめぐる全ての議論の中に潜んでいて、頭から離れることがない。多くの自動車メーカーは、自動運転車開発計画を保留する中で、この質問に対する回答も後回しにしているようだ。しかし現在、自動車業界全体において、ADAS(先端運転支援システム)が自動運転分野の推奨技術とされていることから、この質問の存在感が再び強まっている。米国自動車協会(AAA)は、「自動車業界は現在、ADASの安全な動作を実現するには程遠い状況にあるため、自動車メーカーはADAS開発計画から撤退すべきだ」と主張する。
AAAは2020年8月3日の週、発表したレポートの中で、ADASで現在動作させているLKA(車線維持支援)やAEB(緊急自動ブレーキ)などの機能に対し、確固たる支持を表明できないとの見解を示した。いずれも、多くの自動車メーカーが“人命を救う”ためとして推進している機能である。
AAAは、数多くのADAS搭載自動車について、現実世界の状況下と、クローズドコースの両方において試験を実施した後、「ほとんどのADAS自動車は現在のところ、性能にばらつきがある」と指摘し、警鐘を鳴らした。「ADAS機能は、性能面での一貫性に欠けるため、100%の信頼性実現には程遠い状態にある。また、危険なシナリオの可能性として、ドライバーがほとんど気付かないうちにADASが解除されてしまう場合があるため、ドライバーは突然車の制御を担わなければならなくなる恐れがある」と警告している。
また同レポートは、「AAAとしては、メーカー各社がADASに関する試験の範囲を拡大することを推奨する。また、機能性を改善して、ドライバーにもっと一貫性のある安全な運転経験を提供できるようになるまでは、自動運転車の市場投入を制限すべきだ」と述べている。
なんということだろう。
AAAは主要な欠陥点として、車線維持支援の性能の低さと、ADAS機能がドライバーに提示する警告が不十分であることの2つを挙げている。
3台のうち2台が衝突
AAAの自動車研究グループによると、公道で生じた問題点のうち、ADASを搭載した自動車が他の自動車やガードレールに接近し過ぎたことで、車線逸脱が発生したり、車線上での位置が不安定になるなどの問題が、全体の約73%を占めていたという。
AAAが実施したクローズドコース(サーキットなど)での試験では、システムはほぼ期待通りの性能を実現したという。しかし、これらの自動運転車がソフトテスト用自動車(ダミーの自動車)に接近した場合、全体的に66%の確率(つまり3台のうち2台)で衝突してしまった。平均の衝突速度は時速40kmだったという。
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