量子もつれ 〜アインシュタインも「不気味」と言い放った怪現象:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(5)量子コンピュータ(5)(4/9 ページ)
今回は、私を発狂寸前にまで追い込んだ、驚愕動転の量子現象「量子もつれ」についてお話したいと思います。かのアインシュタインも「不気味」だと言い放ったという、この量子もつれ。正直言って「気持ち悪い」です。後半は、2ビット量子ゲートの作り方と、CNOTゲートを取り上げ、HゲートとCNOTゲートによる量子もつれの作り方を説明します。
「ベルの不等式」の登場
アイシュタインさんと、ボーアさんの没後、このデッドロック状態に対して、それを破壊する現実的な手段が提案されます。「ベルの不等式(1964年)」です
「ベルの不等式」の驚くべき点は、その内容のシンプルさにあります。その不等式は、1行で書けて、その式の意味は、確率を学び始める中学二年生でも理解できます(内容については、ちょっと……ですが)。
この「ベルの不等式」を説明する前に、まずは、その理解に必要な最低限の言葉と意味を覚えておいて下さい。
次に、アインシュタインさんの主張と、ボーアさんの主張を、簡単な図を使って説明してみます。
唐突で申し訳ありませんが、ここで1対の量子状態をイメージするために、電子対なるものを用います。電子対とは、分子や原子内で一つの電子軌道に配される電子の対であり、一つの電子軌道にスピンの符号が異なる電子が2個まで入ることができるものです。
この電子対から電子を分離すると、「一方は上向きスピンで回転し、もう一方は下向きスピンで回転する」ことになります。これは、角運動量保存法則から導かれる(かなり分かりやすい)一つの現象です。
この「上向き」とか「下向き」とかは、ボンドでくっつけた状態にある2つのボールを、バットでたたいてぶっちぎった時に、ボールの一つが「左回り」をして、もう一方が「右回り」をしているイメージで理解してもいいです。
つまり、量子のスピンの方向は、バットでたたいた時に、もう「既に決定している」のであって、一方を観測すれば、他方のスピン方向が分かるというものにすぎない ―― ということです。うん、これなら、確かに分かりやすい。
つまりアインシュタインさんが言いたかったことは、1つの電子対から生成された電子は、最初にその挙動は決定していて、その後、その両者は関連しあうことなく、地球と木星のそれぞれで、独立して存在しているハズである、ということです。
比して、ボーアさんの確率論に基づく量子論は、かなりぶっ飛んでいます。
電子対から電子を分離した時、双方の電子は、いずれも、上向きのスピンと下向きスピンが、確率50%で重ね合わさった状態で存在します(なんで、逆方向のスピンが重ね合わさるの?と思いますよね。私もそう思いますが、ここは”0猫”と”1猫”の話を思い出して飲み込んで下さい)。
そして、一方の電子が、上向きスピンか、下向きスピンかのどちらであるかを観測した瞬間、もう一方の電子の状態が、観測を待たずに、上向きスピンか、下向きスピンかのどちらであるかが、観測を待たずに確定してしまうのです。
その2つの電子の一方を地球上の江端家宅で観測したら、もう他方が、木星(43光分)にあろうが、アルファケンタウル星(4.4光年)にあろうが、果ては、最も遠い銀河z8_GND_5296銀河(126億光年)にあろうが、瞬間に(同時に)確定する、ということです。
しかし、その確定は、その電子をいくら眺めていても外部からは確認できません。木星、アルファケンタウル星、または、z8_GND_5296銀河に、最接近した宇宙船で、私が、実際に、観測機を使って観測しなければ分かりません。
そして、観測した結果(上向き/下向き)が
(1)地球で観測されたことによる結果なのか、
(2)地球ではまだ観測されていない状態での結果なのか
を、知る手段がありません。
もし、どうしても、それを知りたければ、地球にいる私の嫁さんからの連絡を待たなければなりません。それは、少なくとも43分後になります。なぜなら、地球―木星間の通信には、最短で43分かかるからです(ちなみに、私が、アルファケンタウル星に出張中なら、4年5カ月後になります)。
―― なにそれ? それって、量子の非局所性の性質があったとしても、何の役にも立たないじゃん!?
そうです。量子の非局所性は、少なくとも「通信」に関しては、完全に、問答無用で、100%「役立たず」です。
「量子テレポーテーション」に対する世間の誤解の大半が、この「量子通信」にあるのは、議論の余地がありません*)。
*)量子テレポーテーションの正しい意味については、紙面の都合と、私の知力と体力の都合で次回の説明に回します。
このボーアさんの主張に対する私の感想を一言で申し上げますと、「絶望的に訳が分からん」です。
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