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日本の半導体業界にとって“好ましいM&A”を考える大山聡の業界スコープ(33)(1/2 ページ)

日本の半導体メーカーにとって好ましいM&Aとはどのようなものか。事業規模/内容で国内半導体メーカーをいくつかのグループに区分し、それぞれに適したM&Aを考えていく。

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もったいないADIのLTC、Maximの買収

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 Analog Devices(以下、ADI)は2020年7月13日(米国時間)、Maxim Integrated Products(以下、Maxim)を買収すると発表した。買収総額は209億米ドル(約2兆2000億円)になる。ADIは2017年にLinear Technology(以下、LTC)を148億米ドルで買収しており、アナログIC業界でそれぞれに個性的で顧客からも定評のあった3社が1社に統合されることになる。関係者からのお叱りを覚悟で申し上げれば、「ずいぶんともったいないことをしてくれた」というのが筆者の本音である。実際に何人かのユーザーからも「同感だ」という感想を聞いた。半導体業界では、今後もさまざまなM&Aが繰り返されると思うが、それらが必ずしも業界やユーザーから歓迎されるわけではない。ここでは、業界のためになりそうなM&A、とりわけ日本の半導体業界にとってポジティブなM&Aとはどんなものか、考えてみたい。

 電源ICやオペアンプに代表される汎用アナログICは、Texas Instruments(TI)を筆頭にADI、ON Semiconductor、Maximなど、米系企業がズラリと上位に名を連ねている。ADIがLTCを買収したときも、ユーザーからは「もったいない」という声が多く聞かれた。リーマンショックの直後でさえ40%以上の営業利益を維持していたLTCは、ユーザーの満足度が非常に高く、根強いファンが多かったからである。ADIにしてみれば、LTCの買収でTIの背中を追い、さらにMaximを買収してTIとの差を詰めたい、という戦略だろう。だが、有力なアナログICメーカーの寡占化が進むことを喜ぶユーザーはあまりいない。LTCもMaximも外部からの救済を必要とするような企業ではなく、単独でも十分な利益を生み出す優良企業なのである。ADIの関係者には申し訳ないが、そういう会社を立て続けに飲み込んでほしくなかった。TIのようなアナログICメーカーがもう1社出来ても、嬉しくもなんともない。

 やはり業界やユーザーにとって望ましいのは、M&Aによって提案力が強化されること、消去法ではなく積極的に採用したくなるようなデバイスが入手できるようになること、ではないだろうか。

好ましい“ポジティブなM&A”とは?

 そもそもM&Aは、社内のリソースを強化する目的で行われるのが通常だが、そうすることでユーザーに提供できる付加価値が増えるかどうかがポイントである。したがって、競合頻度の高い企業同士よりは、事業領域や製品領域が重ならない企業同士によるM&Aの方が好ましいのが一般的だろう。

 海外だけでなく、日本の半導体業界においても様々なM&Aがすでに行われてきた。中には、リソースの強化というより、半導体事業を連結から切り離すことが目的で行われたM&Aもあった。そのようにして設立された半導体メーカーの多くは、現状のままでは生き残りが難しい、という状態のまま放置されている。言い換えれば、日本の半導体業界のためになるM&A事例はあまり多くない、というのが実情なのである。今後も、さまざまな理由でM&Aが検討されることはあるだろうが、もう少し半導体業界にとってポジティブな事例がほしいところである。日本には、売上高が1兆円前後に及ぶ半導体専業メーカーから、売上高20億円程度の半導体事業を抱える企業まで、さまざまな半導体メーカーが存在する。こうした現状を整理すると以下のような特徴を持つグループに類別することができる。ここでは各グループ別に、好ましいM&Aについて独断的な意見を述べてみたい。

①グローバル市場で高いシェアを維持している企業

 NAND型フラッシュメモリ専業メーカーのキオクシア、イメージセンサーでトップシェアのソニーセミコンダクターソリューションズ、MCUでトップシェアのルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)、LEDでトップシェアの日亜化学などがある。

 このグループに属する企業は、ルネサス以外は戦略商品が1つに絞り込まれており、事業戦略も極めて明確である。1つに絞り込むことへの賛否は両論あるが、これをさらに強化する、あるいは拡販しやすくするような、援護射撃的なM&Aが有効だろう。ルネサスもグローバルに認められているMCUを持っているが、MCUはアナログICやパワーディスクリートと組み合わせたソリューションを要求されることが多く、ここをどのように強化するかが同社の課題となっている。

②アナログICを中心とする企業

 サンケン電気、旭化成エレクトロニクスのように、アナログICを中心としながらディスクリートやセンサーなども手掛ける企業と、新日本無線、リコー電子デバイス、トレックス・セミコンダクターのように、汎用アナログICにほぼ特化した企業がある。

 このグループに属する企業は、グローバルで戦うには事業規模が小さく、メジャーになれるほどの製品力があるとも言い難い。理想的には、注力すべきアプリケーションを同じくできるパワーディスクリートメーカー、あるいは電子部品メーカーと事業統合することで、提案力を強化することをお勧めしたい。かつてはエイブリックもこのグループに属していたが、2020年4月にミネベアミツミの完全子会社として買収された。このM&Aは、今後多くの企業の参考事例となる可能性が高い。

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