自動運転車に“直感”を教えることは可能なのか:人間が優れているもの(2/2 ページ)
筆者は運転中に、周囲のクルマを運転する人について(男女関係なく)「嫌な奴!」と感じることがある。それは、その人が筆者の進路に割り込もうとしていると感じたときで、その勘は大体当たっている。
Mobileyeが提供した、数式モデル
Intel/Mobileyeが2017年に学術論文として発表した、安全性確保のための数式モデル「RSS(Responsibility-Sensitive Safety:責任感知型安全論)」を覚えているだろうか?
このコンセプトを立ち上げた後、IntelはRSSをIEEEに提供した。そのフレームワークは、自動走行車の安全な意思決定に関するIEEE標準をめぐる議論の起点となった。Weast氏は「RSSは、自動車が取るべき適切な反応に伴う安全性の限界を定義する数式モデルである。RSSによって、自動運転車は、ドライバー(周囲の自動車のドライバーも含む)の過失によって事故が発生あるいは事故に巻き込まれるのを防ぐことができる」と説明した。
要するに、ボウリングで、レーンにバンパーを設けることでガターを防ぐように、RSSは自動運転車が事故に遭わないよう回避させていくのである。
Mobileyeが発表した数式モデル「RSS」の一例。これは、前方車両との衝突を防ぐための数式モデル。RSS(Responsibility-Sensitive Safety:責任感知型安全論)には、他にもRSSの例が掲載されている 出典:Intel(クリックで拡大)
自動運転車の支持者らは、自動運転がいかに多くの人々の命を救えるかを主張するのに忙しい。だが、そのような人々は認めるべき功績を十分に認めていない。基本的に、人間は非常に優れたドライバーである。直感的に想定し、常識を働かせ、潜在的に危険な状況に対して適切に反応する。一方、自動運転車には、直感が欠けている。
RSSは、何が危険な状況を作り上げているのか、その原因は何か、どのようにそれに対処すべきかを定義することで、マシンがそうした人間による想定と“暗黙の”交通ルールを解釈できるようにするための試みである。数式は、安全距離はどれくらいか、慎重に運転するとはどういうことなのかを、マシンのために定義しているとWeast氏は説明した。
ドライブポリシー(運転の方針)が標準化の議論の焦点になっていることを考えると、各社はどのように導入していくのだろうか。
例えば、RSSを他社の自動運転ソフトウェアスタックに実装することは可能なのだろうか。
Intel/Mobileyeは、Weast氏が議長を務めるIEEE P2846にRSSを提案している。同氏は他社も安全モデルを提供していると説明する。RSSは技術的に中立なものであるため、「特定のチップやセンサーを使用しなければならないという要件はない」とWeast氏は述べる。
一方で、「IEEE規格に準拠した独自の安全モデルを構築することは十分に可能だ」と同氏は付け加えた。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 5Gが開くメモリの市場機会
DRAMおよびNAND型フラッシュメモリ企業の幹部は、メモリ市場の未来が次世代の携帯電話にいかにけん引されるかについてよく語っている。現在、大きなけん引役となっているのは5G(第5世代移動通信)だ。 - 自動車では「視線検知/制御」に注目すべき
現在、自動運転車に対する熱狂が高まる中で、車載用の視線検出やDMS(ドライバーモニタリングシステム)の果たす役割が忘れ去られてしまっていないだろうか。視線検出や視線制御の分野では、技術開発や協業が進んでいる。 - エッジAI向けプロセッサ、開発競争は激化する?
エッジAI(人工知能)への移行は、高性能プロセッサが鍵を握っている。エッジ/組み込みデバイスに匹敵する価格と消費電力量、サイズを実現しながら、優れた性能を提供できるプロセッサである。 - VeoneerとQualcommがADAS/自動運転で協業へ
スウェーデンのティア1メーカーであるVeoneerとQaulcommが2020年8月27日(米国時間)に、協業提携を発表した。これにより、自動運転車スタック/SoC(System on Chip)プラットフォーム分野において、半導体メーカーやティア1、自動車メーカーの間で権力争いがまだ続いているということがよく分かったのではないだろうか。