検索
連載

イノベーションは日本を救うのかイノベーションは日本を救うのか(最終回)(2/4 ページ)

長く続いてきた本連載も、いよいよ最終回を迎えた。連載名でもある「イノベーションは日本を救うのか」という問いへの答えを出してみたい。

Share
Tweet
LINE
Hatena

イノベーション立国のための環境

 それでは、日本でイノベーションが盛んに起きるためには、どうしたらよいか。

 以前にも述べたように、日本人は物質的な満足感は充足されたが、「主観的健康感(SWB:Subjective Well-Being)」*)が低い。その理由は、自由度と寛容度の低さによるものだという。

*)幸福感、心の豊かさなどは、学術的にはこれらを包括して「主観的幸福感」Subjective Well-Being (SWB)と呼んでいる。

 特に「寛容度の低さ」については、「シリコンバレー〜イノベーションを生む気質」などでも触れたように、「失敗に対する寛容度の低さ」があるのではないだろうか。

 ただ、これは基本的にカルチャーや気質の問題であり、そうたやすく変えられるものではない。これを少しでも早く解消するには、日本の場合は政府が果たせる役割は結構多いと筆者は考えている。「挑戦を促し、うまくいった場合はそれを(ねたむのではなく)称賛する環境、そして何より失敗しても何度でもやり直しがきくような環境」を整えるのだ。

 政府であれば、このような環境を整えるプログラムを用意し、日本のカルチャーとして根付かせていくような施策を打てるはずだ(むしろ政府でなくては難しいだろう)。「高い自由度と寛容度のある環境」さえあれば、想像力や創造力を発揮できる場が増え、それがハードウェアやソフトウェア、ひいてはサービスでもイノベーションを生み出すという、良い循環を作り出せるのではないだろうか。

 ただし、イノベーションが自動的に日本人を豊かにし、日本人が求める新しい価値観をも充足するかというと、そうとは限らない。「豊かさ」や「幸福度」は当然ながら時代によって大きく変わるからだ。

低い「日本人の幸福度」

 今後の日本の進むべき道を考えるには、何が大事な価値なのか、そしてイノベーションがその価値にどう関わるのか、どう貢献するのかも考える必要がある。

 日本は、戦後の復興期から、「三種の神器(洗濯機、白黒テレビ、冷蔵庫)」が庶民のあこがれの的だった1950年代、「3C(カラーテレビ、エアコン(クーラー)、自動車(カー))」があこがれだった1960年代以降の高度成長期を経て21世紀に入り、平成となった2000年代には「デジタル三種の神器(デジタルカメラ、薄型テレビ、DVDレコーダー)」がもてはやされ、さらに令和になっても家電が進化を続け、次から次へと新製品が発売されで世の中にあふれている。日常生活はますます便利に、快適になる一方だ。

 それなのに、日本人の多くが「本当に幸せになっているか」というと、そうでもない。「幸せ」を定量的に評価したり順位付けしたりするのは難しいが、少なくとも、国連が発行した2020年版の「世界幸福度報告書」によれば、日本の幸福度ランキングは何と62位だった。

 この調査は、(1)国民1人当たりのGDP、(2)健康寿命、(3)「社会的支援の充実(困ったときに頼れる親戚や友人がいるか)、(4)自由度(人生で何をするかの選択の自由に満足しているか)、(5)腐敗度(不満・悲しみ・怒りの少なさ、社会・政府に腐敗がまん延していないか)、(6)寛容さ(過去1カ月にチャリティなどに寄付をしたことがあるか)、という6つの指標を基に評価し、ランク付けしている。

 1位はフィンランドで、次いでデンマーク、スイス、アイスランド、ノルウェー、オランダ、スウェーデンと北欧諸国が続く。英国は13位、ドイツが17位、米国は18位、フランスは24位、イタリアが30位。アジアに目を向けると台湾が25位、シンガポールが31位、フィリピンは52位、タイは54位、韓国は61位、香港は78位で、中国は94位だった。これを見ると日本人の幸福度は低いと言わざるを得ない(だがアジアが欧米に比べて相対的に低いというのも気になる)。

 日本が62位という理由には「自由度が少ない」「寛容さが少ない」という理由が挙げられている。なお、幸福度調査には、国連の報告書以外にも英国NEF (New Economic Foundation) [地球幸福度指数(HPI)]やスイスWIN Gallup International 幸福度調査などがあることを付け加えておく。

 一方、内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、「今後の生活において心の豊かさと物の豊かさのどちらを重視するのか」という質問に対しては、1980年を過ぎたころから既に、「物質的にある程度豊かになったので、心の豊かさやゆとりのある生活に重きを置きたい」とする人の割合が、「まだまだ物質的な面で生活を豊かになることに重きを置きたい」とする人の割合を上回っている。2015年の調査では前者が64.0%と過去最高に達し、後者(30.1%)を大きく上回る結果となった(図2)。


図2:内閣府による「国民生活に関する世論調査」 出典:内閣府(クリックで拡大)

 つまり、日本では1980年ごろから、多くの人々が心の豊かさを求めるようになっているにもかかわらず、約40年がたった現在でも、あまり幸福感を得られていないという現実が浮かび上がっているのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る