NIMS、高温ダイヤモンドMEMS磁気センサーを開発:500℃でも高感度で動作が安定
物質・材料研究機構(NIMS)は、500℃の高温環境でも消費電力が小さく、動作が安定している「ダイヤモンドMEMS磁気センサー」を開発した。
ダイヤモンドと磁歪材料を組み合わせ
物質・材料研究機構(NIMS)は20201年11月、500℃の高温環境でも消費電力が小さく、動作が安定している「ダイヤモンドMEMS磁気センサー」を開発したと発表した。航空機や自動車エンジンなど過酷な環境でも安定に動作する磁気センサーとしての応用を見込んでいる。
NIMS機能性材料研究拠点の廖梅勇主幹研究員らによる研究グループはこれまで、単結晶ダイヤモンド基板上にダイヤモンド薄膜を成長させた「全単結晶ダイヤモンド」技術をベースに、単結晶ダイヤモンドMEMS機械共振子の作製プロセスを開発してきた。さらに、ダイヤモンド機械共振子のQ値を決めるエネルギー散逸機構の解明や、ダイヤモンド表面を原子スケールでエッチング加工する技術の開発、100万以上のQ値を持つダイヤモンドカンチレバーの開発なども行ってきた。
これらの研究成果を踏まえ、今回はまずダイヤモンド深部欠陥の影響について調べた。この結果、ダイヤモンドMEMSは少なくとも700℃でも安定的に動作することが分かった。ダイヤモンド固有の深い欠陥エネルギー準位と機械的特性の相関についても検討したところ、MEMS共振子としてはダイヤモンドが優位であることを確認した。
そして、キュリー温度が600℃以上の磁歪材料「Fe81Ga19」膜とダイヤモンドを組み合わせ、500℃という温度環境でも安定して動作するダイヤモンドMEMS磁気センサーを開発した。磁気感度は500℃で10nT/√Hzを達成したという。
室温〜500℃で外部磁場を印加すると、共振周波数は低下する。磁場が高いほど共振周波数のシフトは大きくなる。また、カンチレバーの形状によって、ダイヤモンドMEMS磁気センサーの感度は異なるという。磁場範囲が5mT以下と低ければ、感度は18〜36Hz/mTとなる。FeGa/Ti/ダイヤモンドカンチレバーの磁気感知動作を室温から500℃まで、外部磁場の変化で測定した。温度が上昇すると磁気感度も増え、500℃では約75Hz/mTとなった。磁気感度は温度によって可逆的であることが分かった。
研究グループは今後、センサーの感度や信頼性、寿命、速度などの最適化に向けて、主な回路をワンチップに集積していく予定である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- リチウムイオン利用のスピントロニクス素子を開発
東京理科大学と物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは、リチウムイオンを利用した低消費電力のスピントロニクス素子を開発した。磁気メモリ素子やニューロモルフィックデバイスなどへの応用が期待される。 - 有機半導体トランジスタの高速応答特性をモデル化
東京大学と産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構(NIMS)の共同研究グループは、有機半導体トランジスタの高速応答特性をモデル化することに成功した。製造した有機半導体トランジスタの遮断周波数は、最速となる45MHzを達成した。 - NIMSら、「磁気トムソン効果」の直接観測に成功
物質・材料研究機構(NIMS)は、産業技術総合研究所(産総研)と共同で、「磁気トムソン効果」を直接観測することに成功した。 - 二次元層状物質を用いた光多値メモリ素子を開発
物質・材料研究機構(NIMS)は、二次元層状物質を用いた光多値メモリ素子を開発した。照射するパルス光の強度によって、電荷蓄積量を多段的に調整することができる。 - 半導体用高純度シリコンの収率を15%以上も改善
物質・材料研究機構(NIMS)と筑波大学らの研究チームは、半導体用の高純度シリコンを生成するシーメンス法で、シリコンの収率を現行より15%以上も高めることに成功した。 - シリコン基板上に単結晶巨大磁気抵抗素子を作製
物質・材料研究機構(NIMS)と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究チームは、ウエハー接合技術を用い、磁気抵抗特性に優れた単結晶ホイスラー合金巨大磁気抵抗素子を、シリコン基板上へ作製することに成功した。