半世紀に一度のゲームチェンジが起こる半導体業界、「日本が戦う新しい舞台に」:d.labセンター長×SEMIジャパン社長対談(1/3 ページ)
半導体の設計研究センター「d.lab」センター長、先端システム技術研究組合(略称RaaS:ラース)理事長を務める黒田忠広氏が、SEMIジャパン社長を務める浜島雅彦氏とオンラインで対談。半導体業界の展望や両組織での取り組みおよび半導体製造装置/材料業界に求められることなどを語った。
「半導体2.0」とも呼べる、半世紀に一度の舞台の大転換が起ころうとしている――。こう語るのは、東京大学大学院工学系研究科教授の黒田忠広氏だ。
黒田氏は2019年、東大と台湾TSMCのアライアンス締結に先立って同大で創設した半導体の設計研究センター「d.lab」センター長を務め、さらに2020年8月には先端システム技術研究組合(略称RaaS:ラース)理事長にも就任。両組織では産官学の連携のもと、最先端の専用チップの開発効率を10倍に向上するとともに、3次元(3D)集積技術と7nmプロセスの組み合わせによってエネルギー効率も10倍にすることなどを目標として研究開発を加速している。
同氏は今回、マイクロエレクトロニクスの国際展示会「SEMICON Japan Virtual」(2020年12月11〜18日、オンラインで開催)開催を前に、半導体製造装置/材料の業界団体SEMIの日本代表(SEMIジャパン社長)を務める浜島雅彦氏とオンラインで対談。半導体業界の展望や両組織での取り組みおよび半導体製造装置/材料業界に求められることなどを語った。
「3つの大きな変化」で舞台が大転換
浜島氏 半導体業界はここ2、3年、5G(第5世代移動通信)、AI(人工知能)、量子コンピューティングといったいわゆる「エマージングテクノロジー」のうねりがあります。その一方、2019年は日韓問題によって業界が激震。そして、現在は台湾も巻き込んだような形の米中問題が地政学的な課題となっていますが、脚光を浴びているという意味では追い風にしたいとも思っています。
ただ、日本の産業構造を私の立場から見てみると、半導体のデバイス製造に関しては80、90年代に比べずいぶん凋落(ちょうらく)してしまいました。キオクシア、ソニー両社が頑張っているものの、グローバルで見ればトップの2、3社が寡占化している状態です。そんな中、日本の半導体製造装置は世界シェア35%以上、材料に至っては約60%のシェアを占めており、これは誇るべき状態です。ここをどう強くするか、さらにはデバイス産業も含め日本の半導体、エレクトロニクスサプライチェーンをどう強固にして行くかが、大きな課題と思います。
黒田氏 それはまさに重要な点です。いま半導体産業界では舞台が大きく転換しようとしている。この5〜10年の経験で単純に未来を外挿してはいけない、そんな転換期に入ったと認識すべきです。
何が変化したのかというと、具体的には大きく3つあります。まず1つ目は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)です。
現在、『アフターコロナ』を目指した戦略が考えられていると思いますが、もともと日本が目指していたシナリオにあったとはいえ、このコロナ禍でデジタル革新は大きく加速しました。実際、IoT(モノのインターネット)や5G、AIを用いたDX(デジタルトランスフォーメーション)を世界中で進めており、世界のメガファウンドリーの工場はこの関連の注文でいっぱいになっています。
2つ目は、エネルギー問題がますます深刻になっているという点です。エネルギー制約の克服なくしてDXはあり得ません。DXでどれだけ便利になろうとも、膨大なエネルギーを消費するようではサスティナブルな解にはなりません。今はまさに瀬戸際におり、データ社会が持つ特有の「エネルギー危機」をどう乗り越えるかが重要となっています。
なぜこの危機が起こっているか、それは『ビッグデータ×AI』をしたからです。データが大きく増加し、AI処理もますます複雑になる、その掛け算をしているわけであり、当然、膨大な電力が必要になります。その一方で、2000年を過ぎたころから、ダークシリコンが増えてきました。微細化が進み集積度は上がるが、電源を入れてはいけないトランジスタが大部分で、全て使おうとすればものすごい熱の放出、あるいはエネルギー消費となってしまいます。エネルギー制約があるなかダークシリコンが増え性能を引き出せなくなっている。これが、アフターコロナでデジタル革新が加速したことと重なり、危機的な状況が加速しています。
3つ目は、経済安全保障の対応、一言で言えば、米中技術覇権対立です。かつて80年代、日本も「日米半導体摩擦」を経験しましたが、当時は2国間における貿易問題でした。しかし、今日は米中の貿易問題だけではなく、世界を巻き込み、世界の半導体サプライチェーンを赤と青の2つの色に分ける圧力になるという深刻な問題になっています。この地政学的な観点に関しては、ユーラシアグループのレポートで「世界のICT産業界にとって5兆米ドルのリスクとなる」と分析されています。この地政学的リスクに日本はどう対応していくか、国を挙げて議論されています。
浜島氏 私はコロナの起きる前に、半導体のテクノロジーが3つそろったと感じていました。GPUから始まり、AIという「計算する能力」、NAND型フラッシュメモリなどによって膨大なデータを貯める「ストアする能力」、そして5Gの「通信する能力」です。この3拍子がそろったところに、コロナによってDXのニーズが図らずも加速しましたが、同時に、エネルギーは大丈夫なのか。という議論がでてきたということですね。
最新のCPUが何%しか動いていないというと、もっと能力があるんだなと考えるところですが、実際にはそれ以上動かすと大変な熱やバッテリー消費などの課題が出るので制限している、というのは非常に興味深いです。
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