検索
連載

あの医師がエンジニアに寄せた“なんちゃってコロナウイルスが人類を救う”お話世界を「数字」で回してみよう(65)番外編(9/10 ページ)

日本でもいよいよ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が始まりました。収束のメドが立たない現状においてワクチンが“希望の光”であることは確かですが、やはり恐怖心はそう簡単に拭い去れるものではありません。あの“轢断のシバタ先生”から、長文のメールが届いたのはそんな時でした。今回も超大作のそれには、現役医師によるワクチンの考察と分析がつづられていたのです。

Share
Tweet
LINE
Hatena

【付録A】あなたの友人に”物知り”として自慢できそうな『中国とロシアが開発したワクチンの「怖い話」』

 「アデノウイルスベクターワクチンについてはアストラゼネカ社が先行しているし、それだけ書けば良いかなー」と思っていたら、特大の落とし穴が空いていました。

 なんと、中国とロシアが開発したコロナワクチンは、ヒト由来のアデノウイルスをベクターとして使っていたのです*)

*)ヒト由来のアデノウイルスには最低でも51種類の型があります。中国は5型、ロシアは5型26型のアデノウイルスを利用しています。

 もちろん増殖性を抑える遺伝子改変処理を行っているので危険性はありませんし、過去に研究目的に使い倒されてきた、なじみ深いベクターであることは世界中の研究者が同意すると思います。

 しかし……この5型のアデノウイルスは普通のカゼのウイルスです。中国や米国では人口の4割が、アフリカでは人口の8割が感染し抗体を持っている可能性があるというのです(参考)。

 つまり ―― 中国・ロシアのワクチンで、新型コロナウイルスに対する抗体が得られない人が、大量に発生するかもしれない ―― ということです。

 先程述べたように、過去に感染したことがあるウイルスを運び屋(ベクター)としてワクチンに加工して注射しても、抗体にトラップされて細胞に感染することができません

 このため、中国やロシアの理論上の有効率はアストラゼネカ社製のチンパンジー由来アデノウイルスより相当低く見積もられます。

 これに反論するかのように、ロシアで行われた中国産ワクチンの臨床試験の結果は、9割を超すという報告があるのですが ―― 「中国産ワクチンをロシアで試験」というこのなんとも言い難い組み合わせに、ものすごい皮肉を感じるのは、私だけでしょうか?

 判断は皆さんにお任せしたいと思います。ちなみに、ロシアの26型のアデノウイルスは比較的マイナーで市中の感染率は低いです……が、あなたがこれまでの人生で5型・26型のいずれのアデノウイルスにも感染していないという保障は、どこにもありません

 つまるところ、COVID-19のワクチンというのは、「ロシアンルーレット」という側面があるのです ―― ロシアだけに……

【付録B】ワクチンを自分のPCで追試してみる

 ご自分のパソコンを使って、ファイバー社やアストラゼネカ社のワクチンを、インシリコ(in silico)*)解析で追試してみたい方(いるかな?)は、こちらをご覧ください。

*)コンピュータを用いて、計算で薬効を予測して行う製薬のこと。in vivo (生体内で)や in vitro (ガラス、すなわち試験管内で)などに準じて作られた用語で、「シリコン(半導体チップ)内で」という意味。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る